特定技能「漁業」でフィリピン人材を採用するための完全ガイド

特定技能 漁業

日本の漁業・養殖業は、長年にわたり深刻な人手不足に直面し続けています。高齢化の進行と若年層の流出が重なり、事業の持続可能性に関わる構造的な課題が顕在化しているのです。

この人手不足を解消する手段となるのが、「特定技能制度」における漁業分野での外国人材の採用です。特定技能制度は、即戦力となる技能を持つ外国人材の受け入れを可能にするもので、漁業の未来を支える重要な制度的基盤の一つと言えるでしょう。

ただし、特定技能の採用にあたっては、日本の在留資格と特定技能制度に対する理解と、正しい手続きを踏まなければなりません。さらにフィリピン人材を採用するには、フィリピン政府機関(DMW/MWO)への手続きも伴います。

そこで本記事では、特定技能制度「漁業」について企業の採用担当者が知っておくべき基礎的な知識から、フィリピン人材の採用を成功に導くための具体的かつ実務的な指針を提供します

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目次

深刻化する漁業分野の課題

漁港で水揚げされた魚と海、沿岸の集落が見える風景。特定技能「漁業」での人材採用解説用イメージ。

日本の漁業が直面している問題は、統計データでも裏付けられています。農林水産省の令和6年漁業構造動態調査によれば、漁業就業者は前年から約6,500人減少し、11万4,820人となりました。

漁業従事者の平均年齢は50歳以上で、若手の後継者が不足している状況です。この人数減少は、単なる人手不足を超えて、漁業事業の継承や船上作業の安全確保に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

そこで注目されているのが、特定技能制度です。技能実習制度とは異なり、特定技能の外国人材は特定技能は現場での即戦力を前提とし、比較的長期の雇用を見据えた運用が可能だからです。実際に多くの産業分野で特定技能の外国人が即戦力の人材として活躍しています。

とはいえ、漁業分野における特定技能外国人材の受け入れはまだ十分とは言えません。特定技能漁業分野の最大受け入れ目標は6,300人ですが、2024年12月末時点の在留者数は3,488人と、半分程度にとどまっています。

その理由として考えられるのが、手続きの複雑さと要件の厳格さです。特定技能の在留資格を取得するには、技能評価試験や日本語能力のテストに合格する必要があり、企業としても彼らを支援できる体制を整えなければなりません

そのため、必要な手続きや要件についてしっかり理解したうえで、企業としての採用戦略を立てることをおすすめします。

参考:特定技能在留外国人数の公表等 | 出入国在留管理庁

特定技能「漁業」の全体像

操業中の漁船が海上で網を広げて漁を行う様子。特定技能「漁業」分野の人材採用を象徴する写真。

漁業分野で特定技能外国人を採用するために、まずは制度の全体像を押さえておきましょう。

1号と2号の在留資格

特定技能は技能水準に応じて「1号」と「2号」に分かれます。

1号は現場で即戦力として働ける相当程度の技能を想定した在留資格で、在留期間は通算で最長5年です。家族帯同は原則認められません。

一方、2号は熟練技能を前提とし、期間更新が可能で、一定の条件を満たせば家族帯同も可能になります。つまり短期的な人手穴を埋めるのが1号、長期的に定着・育成する道筋が2号という位置づけとなります

比較項目特定技能1号特定技能2号
想定技能水準相当程度(即戦力)熟練(指導・管理)
在留期間最長通算5年期間更新可(長期在留可)
家族帯同原則不可条件を満たせば可(配偶者と子)
日本語要件日本語能力試験(JLPT)N4レベル日本語能力試験(JLPT)でN3レベル
技能試験技能評価試験合格が原則(実習2号修了者は免除例あり)2号技能測定試験合格が必要(実務経験等の要件あり)
  • 試験は「一般社団法人 大日本水産会」が実施しており、学科と実技(CBT等)を組み合わせて行われます。
  • 1号の取得には、漁業分野の技能評価試験合格または技能実習2号良好修了が必要です。
  • 通常、特定技能2号には日本語の要件は含まれませんが、漁業分野では現場での安全の担保の確保などの観点から、日本語能力試験(JLPT)でN3以上が求められます。

参考:在留資格「特定技能」漁業技能測定試験について | 大日本水産会

特定技能「漁業」の業務区分

漁業分野は大きく「漁業」と「養殖業」という業務区分に分かれます。同じ漁業分野ではありますが、それぞれの区分で求められる技能試験は異なります。そのため、「漁業」区分の特定技能外国人を、「養殖業」区分で就労させることはできません。

また、「漁業」と「養殖業」の区分でも、どのような業務を行えるかも明確に定められています。

スクロールできます
業務区分主な業務内容関連業務

1号
漁業漁船の操業補助
漁労作業(漁獲の捕獲・揚げ込み・選別)
船上での処理・保管
漁具の補修・制作
荷役
漁具・漁労機械の簡易点検・補修
漁獲物の出荷準備・包装等(日本人が通常従事する範囲で付随的に従事可能)
養殖業養殖生物の給餌・飼育管理
成長観察・選別
収穫・選別・出荷処理
施設の簡易保守
養殖施設の設備点検・補修、梱包・出荷管理、自家加工・包装の補助等(付随的業務)
2号漁業上記漁業業務に加え、操業や漁労作業の管理補佐
作業員への指導、作業工程の管理
生産計画の補助
工程管理
班長・副長的な指導業務
設備保守の管理等
養殖業上記養殖業務に加え、飼養管理や生産工程の管理・指導生産計画・在庫管理、疾病対策の現場統括
品質管理・出荷管理の統括等
  • 受入れ可能な業務は「漁業」または「養殖業」のどちらかの区分で定められます。原則として、合格した区分の業務に従事します。両方の業務に従事するには、それぞれの区分の試験に合格する必要があります。
  • 特定技能外国人は、漁業・養殖業以外の業務には従事させられません。ただし、日本人が通常従事する関連業務(付随的な機械管理や出荷業務など)については業務の一部として認められます。
  • 1号は「即戦力としての実務従事」が前提、2号は「管理・指導を担える熟練者」を想定しているため、募集票や教育計画は区分ごとに明確にしてください。

参考:漁業分野 | 出入国在留管理庁

特定技能1号取得のための必須要件

黒板に「EXAM」と書かれた教室で、白い用紙と鉛筆が置かれている試験準備のイメージ写真。

外国人材が特定技能を取得するには、所定の技能水準と日本語能力の両方を満たす必要があります。

漁業分野は「漁業」と「養殖業」に区分され、それぞれ別の試験・要件が定められています。

技能測定試験
区分漁業/養殖業(区分ごとに試験が設定)
実施主体漁業分野は一般社団法人 大日本水産会が実施
形式学科(知識)+実技(図・写真を用いる問題あり)/CBT等の形式あり
出題例漁具、漁船の基礎、漁獲物の選別・処理、衛生管理 等

合格は在留資格取得の前提です。合格=自動的な入国・就労許可ではありません。手続き(在留申請・雇用契約等)は別途必要です。

日本語要件
基準例(1号)JLPT(日本語能力試験)N4相当、またはJFT-Basic(A2相当)。
意味合い業務指示が理解でき、職場で最低限のコミュニケーションができる水準。

特定技能1号で外国人材を採用する際には、対象者が技能測定試験と日本語要件の両方を満たしているかを必ず確認してください。

受験資格・年齢と労働基準法上の注意
  • 年齢
    • 受験要件は試験要項による(一般的に満17歳以上とするケースが多い)。
  • 未成年の受け入れ時
    • 深夜業の禁止、危険有害作業の制限など、労働基準法上の制約を厳守する必要があります。
  • 実務チェック
    • 未成年を採る場合は、安全対策と労務管理ルールを事前に整備してください。

技能実習2号から特定技能1号への移行

技能実習2号を良好に修了した漁業分野の外国人は、特定技能1号への移行時に技能試験・日本語試験が免除される場合があります。ただし、免除が適用されるには次の実務条件が必要です。

1. 良好に修了していること
  • 漁船での操業、漁労作業、漁具の補修・管理などの実習内容が、所定の評価基準を満たしていること。
  • 実習先(企業や監理団体)による出勤状況・技能習得状況の評価で「良好」と判定されていること。
2. 特定技能の業務と関連性があること
  • 漁業分野の特定技能1号として従事する業務(例:沿岸漁業、養殖管理、漁獲物の選別・処理など)と、実習2号で行った作業内容が対応していること。
  • 業務の関連性が薄い場合、技能試験が必要になることがあります。

この条件を満たすことで、漁業の現場ですぐに戦力として働ける人材を、試験を免除した状態で受け入れることが可能になります。

採用担当者は、移行前に実習修了証や評価調書を確認し、業務内容が特定技能で想定する現場作業に適合しているかを必ず確認する必要があります。

採用担当者向けまとめリスト
試験合格は「前提条件」。合格後も入管手続きが必要。
日本語要件(JLPT/JFT)のどちらで満たすか、事前に明示する。
技能実習2号修了者を採用する場合、修了証と「良好修了」を確認する。
未成年受け入れは法的制約が多い。現場で実行可能か必ず検討する。
受験時期・合格見込みを採用スケジュールに組み込む(逆算で計画すること)。

漁業分野の特定技能は「現場直結の技能」と「最低限の日本語力」を両立することが前提です。合格要件と実務手続きを採用計画に落とし込み、書類・スケジュールを事前準備してください。

参考:特定技能制度 | 出入国在留管理庁

特定技能協議会への加入と受け入れ体制の整備

ノートパソコンで電子書類を操作するビジネスパーソンの手元。特定技能「漁業」関連の申請や手続きのイメージ

漁業分野で特定技能外国人を受け入れる場合、受け入れ事業者は漁業特定技能協議会への加入が必須です

加入の有無は在留資格手続きに直接影響するため、加入手続きと受け入れ体制の整備は採用計画の初期段階で着手してください。

協議会への加入と役割の整理

漁業特定技能協議会には、加入する事業者や団体ごとに役割が分かれています。

項目内容
受け入れ事業者
(1号構成員)
特定技能外国人を直接雇用する企業・漁業者。
協議会への加入が在留資格申請の前提となります。
指導・助言団体
(2号構成員)
受け入れ事業者を指導・助言する全国団体。
加入手続きのサポートや書類確認を行い、法令遵守や業務安全のポイントを事業者に提供します。
登録支援機関外国人の生活支援や日本語教育、安全教育などの支援計画の作成・実施を事業者から委託される専門機関。
協議会加入は必須ではありません。
加入のタイミングと実務上の注意

初めて特定技能外国人を受け入れる事業者は、在留資格の申請に先立ち、協議会への加入(1号構成員資格の取得)を完了する必要があります。加入が遅れると在留申請や入国手続きが停止する恐れがあります。

既に受け入れ実績がある事業者には経過措置が設定される場合がありますが、運用ルールは改訂されることがあるため、早めに所属する2号構成員に確認してください。

加入手続きには所属希望の2号構成員の確認が必要となるのが通常の流れです。どの2号構成員に所属するかは、自社の業種・地域により適切な団体を選ぶ必要があります。

加入・申請の簡易フロー

  1. 自社の業務区分(漁業/養殖)を確定する。
  2. 所属を希望する2号構成員に加入申請書類(雇用予定者情報・支援計画概要 等)を提出する。
  3. 2号構成員による確認を経て、協議会事務局で審査が行われる。1号構成員資格証明書が交付される。
  4. 資格証明書を添えて、地方出入国在留管理局へ在留資格認定申請(または変更申請)を行う。
    ※初回受け入れ時は、在留申請の前に上記1〜3を終えるのが原則です。

提出・準備すべき主な書類(代表例)

  • 加入申請書(様式)および会社概要(法人登記等)
  • 受け入れ予定者の基本情報(氏名・国籍・予定業務区分 等)
  • 雇用契約書(想定雇用条件の明示)
  • 支援計画の概要(日本語教育、生活支援、安全教育の計画)
  • 受け入れ先の安全管理体制や宿泊・生活環境の説明資料
  • 必要に応じて、漁船等の操業計画や作業割当表

登録支援機関の利用について

受け入れ事業者は、支援計画の作成・実施を登録支援機関へ委託できます。委託は実務負担を大きく軽減します。

登録支援機関は協議会に加入する必要はありませんが、支援計画の内容や実施記録は加入手続きや入管手続きで求められることがあります。

登録支援機関が行う支援をさらに第三者へ再委託する際の可否については、契約内容と法令に従う必要があります(原則として支援の実施責任は登録支援機関にあります)。

実務上の留意点

  • 加入の段取りを誤ると在留申請が滞るため、在留申請スケジュールを逆算して加入手続きを最優先で進めてください。
  • 2号構成員は地域や漁業の種類ごとに窓口が異なります。自社に適した団体を選び、事前に担当窓口と要件を擦り合わせましょう。
  • 加入に要する期間は団体によって差があり、数週間〜数か月を見込む必要があります。余裕を持ったスケジュール設定が肝要です。

参考:特定技能外国人の受入れ制度について (漁業分野)|水産庁

漁業分野における安全管理と衛生管理の注意点

「SAFETY FIRST」と書かれた盾マークを積み木で組み立てる手。漁業現場での安全管理や労働安全対策の象徴。

漁業では漁船の操業や不安定な自然条件、重機を使う作業など、重大事故につながりやすい危険性が常に存在します。

したがって受け入れ事業者は、安全管理を労務管理の最優先事項として位置づけ、教育・手順・記録の三点を一体で整備する必要があります。

特に外国人材は日本語水準がN4程度にとどまることが多いため、口頭説明だけで済ませず、視覚的な手順書や実演・確認を繰り返すなど理解を確実にする方法を組み合わせることが不可欠です。

受入れ初期時の注意点

初期導入では、具体的な作業手順を「見せる→やらせる→確認する」のサイクルで定着させ、先任者によるバディ制度を導入すると効果的です

月次の危険予知(KY)ミーティングや、年次の救命講習・応急手当訓練を計画的に実施し、その参加記録と理解度チェックは必ず保存してください。これらの記録は労災対応や入管・協議会への説明資料として重要になります

漁獲物処理に係る衛生管理の知識

衛生管理については、漁獲物の選別・処理・出荷を行う事業者に対して改正食品衛生法に基づくHACCP対応が求められています。事業者は衛生管理体制の責任者を決め、外国人従業員にも職務に即した衛生教育(手洗い、器具消毒、温度管理、交差汚染防止など)を行う必要があります。

養殖業ではさらに水質測定や病害の初期対応、投薬記録の保持といった専門的な手順が求められるため、これらを業務別マニュアルに落とし込み、実務で確認させる仕組みを作ってください。

コンプライアンスの重要性

雇用面のコンプライアンスも現場の安全・衛生と表裏一体です。特定技能外国人の報酬は日本人と同等以上とする原則があり、労災・雇用保険などの加入義務も事業主にあります

担当者向けチェックリスト
初期教育の教材(視覚資料・実技手順)と理解度チェックを用意する。
バディ制度と月次KY、年次救命講習をスケジュール化し、出席と結果を記録する。
衛生マニュアル(作業別)と温度ログ等の保存ルールを整備する。

参考:特定技能運用要領 | 出入国在留管理庁

漁業分野における「派遣」の可否と条件

「APPROVED」と押された書類に判を押す手元。特定技能「漁業」人材の派遣申請承認のイメージ。

特定技能制度では派遣形態は原則認められていませんが、農業・漁業の二分野については、季節性や業務の変動性を踏まえた例外的な取扱いが設けられています。

とはいえ派遣を行うには労働者派遣法上の要件に加え、特定技能制度の運用要領で定められた厳格な要件を満たす必要があります

派遣元(派遣を行う側)が満たすべき基本要件

漁業分野で特定技能外国人を派遣する場合、派遣元事業者には次の条件が求められます。

  • 労働者派遣事業の許可
    • 原則として、厚生労働省の「一般労働者派遣事業許可」を取得していることが必要です。
  • 漁業分野に係る実績・事業内容
    • 特定技能の農漁業派遣では、単に派遣業許可を持つだけでは不十分です。実際に当該分野(漁業または養殖業)に関する事業経験を有していること、または地方自治体・漁業協同組合などとの関係性が確認できることが求められます。
  • 在留資格および支援計画の責任
    • 外国人労働者の在留資格管理や生活支援(支援計画の策定・実施)について、主たる責任は派遣元にあります。登録支援機関に委託することは可能ですが、最終的な法的責任は派遣元が負います。

派遣先(受け入れる側)が遵守すべき義務と制限

漁業分野で特定技能外国人を派遣労働者として受け入れる場合、派遣先には次のような義務と制限があります。

業務範囲の適正化派遣労働者が従事できるのは、「特定技能の漁業・養殖業区分」に該当する作業に限られます。
一般事務や販売など、他の分野の業務を兼ねさせることはできません。
労働条件の均等待遇報酬は同じ業務に従事する日本人と同等以上でなければなりません。
時給、手当、労働時間など、いずれの面でも不利な条件としてはなりません。
安全衛生と教育の実施責任船上や加工場での安全確保は派遣先の責任で行う必要があります。
外国人労働者に対しては、日本語の理解度に応じ、図示や実演を交えた安全教育を行うなど、事故防止のための工夫が求められます。
派遣期間の管理労働者派遣法上、同一の派遣先・同一の組織単位における派遣期間は原則3年が上限です。
特定技能の在留期間(最長5年)とは別に管理する必要があります。
勤勤務地の制限外国人労働者の生活安定のため、勤務場所は住居から通勤可能な範囲に限定されます。
遠方の漁港や事業所への頻繁な異動や転勤は認められません。

その他の運用上のルール

派遣期間の上限労働者派遣法の規定に基づき、同一の組織単位への派遣期間は原則3年が目安(延長要件や例外取り扱いの規定もあるため、事前確認が必要です)。特定技能の在留期間(1号の通算5年等)とは別個に管理してください。
勤務地の範囲運用要領は「外国人が生活・通勤・医療等に支障なく生活できる範囲」としています。
法令上の具体的数値は示されていないため、実務上は通勤時間や宿舎の有無などを踏まえ「通勤可能圏内か」を判断します(運用目安として通勤時間を設ける事業者もありますが、それはあくまで実務上の目安です)。
法令遵守の二重チェック派遣形態では、労働者派遣法、出入国在留管理法(特定技能関連運用要領)および送り出し国側のルール(フィリピン等)をすべて満たす必要があります。

手続きと必要書類

実務上の基本的な流れは次の通りです。派遣を検討する段階で早めに各関係機関とすり合わせてください。

STEP
派遣可否の事前確認

所属予定の漁業特定技能協議会・管轄の出入国在留管理局・(必要に応じ)労働局に事前相談。

STEP
派遣元の資格確認

派遣事業の許可や運用要領上の要件を満たすか確認。

STEP
契約書類の整備

雇用契約(当人)、派遣契約(派遣元⇄派遣先)、支援計画(派遣元が主責任)を作成。

STEP
在留・協議会手続き

協議会や入管へ必要書類を提出、在留手続き・協議会手続きと整合させる。

STEP
運用開始後の記録管理

派遣期間・労働時間・教育記録・苦情対応記録等を保存。

代表的に用意すべき書類の例:派遣契約書、支援計画書、雇用条件書、派遣期間予定表、就業場所の住所・宿舎情報、安全教育計画、派遣元の許可証明類など。

実務上の注意点(よくある落とし穴)

  • 派遣元の要件を過小評価してしまい、入管や協議会で差戻し・不許可となるケースが多い。事前確認は必須です。
  • 同一単位への長期連続派遣(3年超)にならないよう、派遣期間のスケジューリングと代替手段を用意しておくこと。
  • 通勤圏の判断を曖昧にして苦情や生活問題が発生すると、受入体制の信頼性が損なわれる。宿舎や交通手段は明確に示してください。
  • 派遣元が支援計画を“形だけ”作成し、実行しないケース。支援は書面だけでなく実効ある運用が求められます。
採用担当者向け簡易チェックリスト
派遣形態が自社業務で認められるか、協議会・入管に確認したか。
派遣元の要件(派遣許可・運用要領上の要件)を満たしているか確認したか。
派遣契約と支援計画(役割分担)を文書化したか。
派遣期間が3年ルールに抵触しないよう、タイムラインを作成したか。
住居・通勤手段・緊急時対応を含む生活支援体制を確認したか。
労働保険・労災等の手配と、給与水準が日本人と同等以上であることを確認したか。

派遣は漁業の季節変動に対応する有用な選択肢です。しかし例外的制度である以上、事前確認と記録、明確な契約による責任分担が成否を分けます。派遣を検討する際は、協議会・入管・労働局等の関係機関と早期に相談し、派遣元・派遣先の要件と運用フローを文書で固めたうえで進めてください。

参考:漁業分野 | 出入国在留管理庁

特定技能2号への移行要件:長期的視点での人材育成と定着戦略

人のシルエットと上向きの矢印を描くビジネスパーソン。特定技能人材の成長やキャリア支援を表すイメージ。

特定技能1号の外国人材が2号の資格を取得すると在留期間の上限がなくなり、家族帯同も可能となるため、人材の長期定着と現場のリーダー育成が期待できます。これにより、事業の安全性・継続性・技術継承が促進されます。

そのため、企業としては1号の在留期間中(最長5年)に、自社の1号外国人の2号への移行を支援することが求められます

1号から2号への移行要件
  • 2号漁業技能測定試験合格
  • JLPT等のN3相当の日本語力
  • 日本国内での管理者等としての実務経験2年以上(技能実習期間は含まれない)。

漁業分野で特定技能2号の在留資格を得るには、技能試験と日本語能力試験の両方に合格しなければなりません。

漁業技能測定試験

特定技能2号への移行は、特定技能1号の期間を修了した外国人が、その分野で熟練した技能を有することを証明する2号漁業技能測定試験に合格することで可能となります。この資格を取得することで、日本で長期的に在留し、管理者等として働く道が開かれます。

この試験は、漁業と養殖業の業務区分ごとに実施され、一般社団法人大日本水産会が主催しています。試験はCBT(Computer Based Testing)形式で、漁業一般、漁業安全、漁業専門知識からなる学科試験と実技試験で構成されます。

日本語能力

特定技能2号への移行では、多くの分野で日本語能力試験は求められませんが、漁業分野ではN3以上が必須要件と定められています。これは、漁業という産業が持つ固有のリスクと、2号外国人材に期待される役割の重大性に起因しています。

高度な安全管理の必要性

漁業は、漁船の操作や自然条件の変化に直接影響を受けるため、他の産業と比較して労働災害や事故のリスクが非常に高い産業です。2号人材は、操業の指揮監督者を補佐する者、または作業員を指導する管理者等の役割が想定されています。この立場にある者が、高度な日本語能力(N3)を正式に証明することで、複雑で緊急性の高い安全指示、危険予知訓練の内容、法規制に係る知識の伝達を正確に行えることが、制度的に担保されます。

指導・管理業務の円滑化

2号人材は、漁労作業や養殖物の管理だけでなく、作業工程の管理や他の労働者(日本人および外国人)への指導・監督の業務を行います。N3レベルの日本語能力は、単なる日常会話を超え、指導、報告、問題解決、資材管理といった業務管理全般に必要な論理的なコミュニケーションを円滑に行うための最低限の言語能力と位置づけられているのです。

実務経験

受験資格として、試験日において満17歳以上であることに加え、日本国内での管理者等としての漁業の実務経験が2年以上必要とされています。これは、単なる作業員ではなく、現場の指導者や管理者として業務を遂行できる高度な技能水準が求められていることを示しています。

企業が行うべき人材育成計画と長期的なキャリアパス

特定技能制度の本来の目的は、日本の産業に長期的に貢献し、定着する人材を育成することです。受け入れ企業は、特定技能1号の5年間を単なる労働期間として終わらせるのではなく、外国人労働者に対し、定期的な技能評価と教育を実施する必要があります。

支援内容の例
  • 管理経験を証明する書類の準備
    • 勤務記録、上長の確認書等の書類を早期に整えること。
  • 教育支援
    • N3レベルの実務日本語、リーダーシップ研修、工程管理のOJT、帳票・指示書の運用訓練などを段階的に計画する。
  • タイムラインの設定
    • 1号受入→日本語・安全教育(0–6カ月)→現場での技能向上(6–24カ月)→2号受験準備&書類整備(18–24カ月目〜)→2号受験・合格→2号申請。※事業所や個人差あり。
実務チェックリスト
受け入れる人材に対し、1号受入時から「2号を目指す可否」を採用時に判定する。
日本語教育計画(N4→N3への到達目標)を設定する。
管理経験を積ませるための業務配置と記録の整備(2年以上の証明を想定)。
2号受験のための書類(勤務証明等)を早期に収集・保管する。

特定技能2号は、熟練した技能を持ち、現場の指導や管理を担う人材を対象としています。したがって、特定技能外国人の受け入れを単なる短期的な人手不足の補填とするのではなく、長期的な戦力育成と定着を見据えた取り組みが求められます。

企業としては、1号の段階から日本語教育・安全教育・工程管理の基礎訓練などを体系的に行い、将来の管理者候補を育成する仕組みを整えることが重要です

特定技能2号への道筋を明確に示し、長期的なキャリアパスを提供する企業は、外国人材からの「選ばれる力」、すなわち採用における競争優位性を最大限に高めることができます。優秀な外国人材の定着は、貴社の将来の安定した労働力の確保に直結するのです。

参考:「漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領|法務省

事例から学ぶ!フィリピン人を漁業分野で活用するメリット 

「case study」と書かれた札が付いた資料の束。特定技能「漁業」でのフィリピン人材採用事例を示すイメージ。

フィリピン人はそのホスピタリティ性、コミュニケーション能力の高さ、出稼ぎに対する意識の高さからくる勤勉さなどから、日本の多くの産業分野で活躍しています。

ここでは、実際に漁業分野でフィリピン人材を雇用している企業の事例から、彼らを採用するメリットについて考察してみましょう。

大盛丸海運株式会社の事例

宮城県気仙沼市に本社を置く大盛丸海運は、遠洋漁船で漁獲された鮪を急速冷凍で運搬する船を運航しています。日本人船員16人の他にフィリピン人やインドネシア人スタッフを加えた多国籍チームを編成しています。

日本語や英語でのコミュニケーション能力に長けたフィリピン人航海士は、船内で即戦力として活躍。フレンドリーな国民性も相まって、若手の日本人船員との仲もすぐに打ち解けると報告されています。

また彼らが活躍できるための取り組みも行っています。文化や生活習慣の違いに配慮しつつ、ビリヤードや卓球台を備えた休憩室などを整備して交流を促しています

また組員からのヒヤリハット報告を基にして、作業時の注意点をまとめた動画を日本語だけではなく英語版を作成し、乗船前教育に使用しています。

学べる教訓
  • 即戦力としての貢献
    • フィリピン人は文化的適応力も高く、漁業分野でも即戦力としての活躍が期待できる。
  • 多国籍チームにおける潤滑油
    • ホスピタリティ性や高いコミュニケーション力を持つフィリピン人スタッフは、多国籍チームにおける橋渡し役としての役割を期待できる。
  • 企業の支援体制
    • 異なる文化や習慣を日本人スタッフが受け入れるとともに、外国人材が活躍できる環境を整えることが重要。

特定技能フィリピン人は、漁業分野でも即戦力としての活用が期待できます。企業は彼らを受け入れたあとも、必要な環境整備を行うことが期待されています。

参考:大盛丸海運株式会社|SECOJ

フィリピン人材受入れに必要なDMWと送り出し機関

フィリピン国旗を手に持つ様子。特定技能「漁業」でフィリピン人材の採用や書類申請を象徴するイメージ。

漁業分野で特定技能フィリピン人材を採用する際は、日本側の要件・手続きだけではなく、フィリピン政府側の組織(DMW/旧POEA)と、現地の送り出し機関についての理解が不可欠です。

DMWと送り出しルールの要点

フィリピンは国民の約10%が海外で働いているという現状があり、労働者を保護するため、DMW(海外労働者省)という行政機関が海外への送出を厳格に管理・監督しています。

例えば、フィリピンではエージェントを介さない企業による直接雇用は原則禁止されており、DMW認定の送り出し機関を通じた手続きが必要となります。

そのため日本の企業がフィリピンから特定技能人材を直接雇用しようとする場合、まずはDMW認定の送り出し機関と人材募集・雇用に関する取り決めを締結し、その上でMWOへの申請手続きを行い、認証を得る必要があります

またDMWは不当な手数料徴収を禁じる通達を出しており、紹介料や手数料の取り扱いには法的なルールが適用されます。とはいえ、実務上は運用に差が出ており、企業側が想定外の費用負担や説明不足に直面するケースが散見されます。

送り出し機関選定の重要性

フィリピン人採用における最大の実務リスクの一つは、送り出し機関の選択です。なぜなら、一部には不当な費用請求や書類偽造、質の低い日本語教育といった悪質な運営を行う機関が存在するからです。

そうした事案は、労働者本人に深刻な被害をもたらすだけでなく、受け入れ企業にも失踪・不法就労・労務トラブルといった重大な負担を引き起こします。

したがって、送り出し機関の選定は「人が来るかどうか」だけで判断してはいけません。倫理性・透明性・法令順守を含めた総合的な適性評価が不可欠です

参考:DMW

送り出しカフェの活用

送り出しカフェ公式サイトトップ画面

DMWへの申請、送り出し機関の選定など、ビザ申請以外に必要な手続きが含まれるフィリピン人材の採用を成功させるには、専門のサポート機関を利用するのが最も効率的かつ効果的です。

送り出しカフェは、フィリピン人労働者の採用を検討している日本企業を対象に、フィリピン現地の送り出し機関の紹介・仲介を行っています。

フィリピン政府のライセンスを持つ正規の送り出し機関と提携しており、年間2,000人を海外に送り出す実績を有するパートナーなど、実績豊富な機関と連携しているのが大きな特徴です

送り出しカフェ活用のメリット
信頼性のある送り出し機関の紹介

フィリピン政府公認のライセンスを持つ送り出し機関と提携しているため、違法・不透明な業者を避けられる。

人材の母集団が大きい

提携大学・職業訓練校から約7,000人規模の候補者がいるため、必要な職種に合った人材を探しやすい。

特定技能16分野に対応

介護・外食・建設など幅広い業種の求人に対応できる。

安心の日本語対応

日本人スタッフが窓口となるため、言語や文化の違いによる誤解・トラブルを減らせる。

採用から入国後までワンストップ支援

求人票作成、面接調整、ビザ・MWO申請、入国後の定着支援までトータルサポート。

手続きの負担軽減

フィリピン側で必要な複雑な申請書類や手続きを代行・支援してくれる。

日本語教育サポート

採用前から就労後まで継続的に日本語教育を行う体制があり、現場でのミスや離職リスクを軽減できる。

費用や採用リスクの低減

信頼性の低い送り出し機関を選んで失敗するリスクを減らし、スムーズな採用につながる。

送り出しカフェを活用することによって、DMWのルール確認、信頼できる送り出し機関の選定、明確な契約とスケジュール管理などを円滑に行うことができるでしょう。

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まとめ:漁業分野で特定技能フィリピン人採用を成功に導くために

夕暮れの海を航行する漁船と群れるカモメ。特定技能「漁業」での外国人就労や漁業現場を象徴する写真。

特定技能外国人材は、特定技能制度の活用は、日本の漁業・養殖業における深刻な人手不足問題に対する現実的な解決策を提供します。また単なる一時的な労働力ではなく、漁業・養殖業の将来の発展を担う貴重な資源となりえます。

長期的な視点に立った育成と充実した支援計画の実施を通じて、外国人労働者が安心して日本で定着できる良好な雇用関係を構築していく必要があるでしょう。

しかし特定技能フィリピン人材の採用を成功させるには、日本の出入国在留管理庁、漁業特定技能協議会、そしてフィリピンのDMW/MWOという、多岐にわたる機関との連携が不可欠です。

私たち送り出しカフェは、信頼できる送り出し機関の紹介からビザ申請・入国手続き、日本語教育に至るまで、企業向けに一貫したサポートを提供しています

フィリピン人材の採用を検討しているのであれば、まずは一度、お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

三木 雅史(Masafumi Miki) 株式会社E-MAN会長
1973年兵庫県生まれ / 慶応義塾大学法学部法学科卒
・25歳で起業 / デジタルガレージ / 電通の孫請でシステム開発
・web通販事業を手掛ける
・2006年にオンライン英会話を日本で初めて事業化
・2019年外国人の日本語教育を簡単、安価にするため
 日本語eラーニングシステムを開発、1万人超の外国人が日々学習中

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