日本の自動車整備業界は、高齢化の進行と若年層の離職により、構造的かつ深刻な人手不足に直面しています。この人手不足は、単に労働力が不足しているという問題にとどまらず、安全な車両運行を支える社会インフラとしての産業機能の維持に関わる喫緊の課題です。特に、自動車の構造や電子制御技術の高度化に伴い、高度な専門知識と技能を持つ人材の確保が一層重要となっています。
こうした状況に対応するために国が整備した主要な在留資格制度が「特定技能制度」です。特定技能制度は、即戦力として活躍できる外国人材を安定的に受け入れることを目的としています。
当記事では、フィリピン人材の雇用を検討している企業担当者を対象に、この制度の概要、受け入れ要件、そして長期的な雇用を実現するためのポイントについて、専門的な観点から解説します。特定技能制度の活用は、貴社の持続的な事業継続と発展に直結する戦略的な取り組みであると言えるでしょう。
\ 送り出し機関紹介サービス /
特定技能制度の概要と自動車整備分野の業務内容

特定技能は、人手不足が深刻な産業分野で即戦力を確保するために創設された在留資格です。制度は2019年4月1日に施行されました。
出入国在留管理庁が在留資格全般の運用と審査を統括し、自動車整備分野は国土交通省が所管しています。
2024年時点で、自動車整備分野の特定技能人材の数は約2,200人で、特定技能全体の約25万人と比べると、まだまだ少ない規模となっています。
自動車整備分野の業務範囲
特定技能(1号)で従事できる業務は、日常点検整備、定期点検整備、分解整備など、道路運送車両法に基づく基礎的な整備業務に限定されます。これらは車両の安全を確保するための重要な作業であり、高い専門性が求められます。
さらに、近年の自動運転技術や安全支援システムの普及により、「特定整備」と呼ばれる新しい整備領域が追加されました。電子制御装置に関する整備が含まれるため、特定技能人材にも最新技術への理解と対応力が求められます。特定整備を実施する場合には、地方運輸局長の認証や必要な機器・講習の整備が条件となります。
1号と2号:目的と位置づけ
特定技能には1号と2号の二種類があり、目的と在留の性質が異なります。
特定産業分野で相当程度の知識や経験を必要とする技能を持つ外国人向けの在留資格です。在留期間は通算5年までで、家族帯同は原則として認められていません。
特定産業分野で「熟練した技能」を持つ外国人が対象の在留資格です。特定技能1号より高度な技能と実務経験が求められ、在留期間の制限がなく家族帯同も可能です。
特定技能1号は、通算で5年を上限とする期間限定の在留資格です。受入れ機関には支援計画の策定と実施が義務づけられ、生活や就業環境の整備を行う必要があります。
一方、特定技能2号は在留期間の更新が可能で、実質的に上限がなく、配偶者や子どもの帯同も認められます。生活基盤が安定するため、人材の定着率を高める上で大きな効果があります。
自動車整備分野において1号から2号に移行するためには、国土交通省の認証を受けた整備事業場での3年以上の実務経験と、2号評価試験への合格が必要です。したがって、1号人材を受け入れる企業は、早い段階から「2号移行」を見据えた育成計画を立てておくことが求められます。
1号と2号の違い一覧
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
在留期間 | 通算で上限5年まで | 更新可能で事実上の上限なし |
家族帯同 | 原則不可 | 配偶者・子の帯同が可能(別途手続き) |
求められる技能 | 即戦力としての実務技能 | より高度で熟練した技能 |
要件 | 1号検定試験の合格と日本語能力JLPT N4相当(またはJFT-Basic)が必要 | 認証事業場での3年以上の実務経験ならびに、2号評価試験の合格 |
支援義務 | 受入れ機関に支援計画の作成・実施義務 | 支援義務は基本的に緩和されるが、生活支援は定着に有効 |

特定技能受入れ企業の要件

特定技能外国人を受け入れる企業(特定技能所属機関)には、単なる労働力補填を超えた公的義務と高いコンプライアンスが課されています。
これらの要件は、外国人の保護と制度の適正運用を目的としており、違反があれば指導・改善命令や受入停止といった行政処分があり得ます。したがって、人事・コンプライアンス部門は制度の根拠と手続きに精通しておくことが不可欠です。
特定技能所属機関に求められる6つの基準
受入れ企業には、次の6つの要件を満たすことが求められています。
- 雇用契約の適切性
- 外国人に支払う賃金は日本人と同等以上であることが求められます。賃金の比較方法や証明も審査対象です。
- 機関自体の適格性
- 過去に出入国や労働関係法令による重大な違反がないことが条件です。機関の信用性やコンプライアンス意識の確認が行われます。
- 支援体制の整備
- 外国人が日本国内で円滑に生活・業務に従事できるよう、適切な支援体制を整える必要があります。
- 支援計画の策定・実施
- 支援業務は入国直後の生活支援から職場での定着まで広範囲に及びます。計画を作成し、記録を残す義務があります。
- 地方運輸局長の認証を受けた認証工場であること
- 受入れ企業が適切な整備能力と知識を有していることの証明となります。
- 自動車整備分野特定技能協議会への加入
- 自動車整備分野で特定技能外国人を受け入れる場合、国土交通省が設置する「自動車整備分野特定技能協議会」への加入が義務付けられています。
10項目の支援義務
受入れ企業は、特定技能外国人が安定して生活し業務に専念できるよう、支援計画を策定し、出入国在留管理庁に説明できる状態であることが必要です。特定技能1号人材に関しては、以下の10項目の支援を行うことが義務付けられています。この計画には義務的支援の内容や責任者、具体的な実施方法を明確に盛り込む必要があります。
支援項目 | 実務のポイント | |
---|---|---|
1 | 事前ガイダンスの実施 | 雇用契約締結後に業務内容・労働条件・給与・保証金の有無を対面またはオンラインで説明。 記録(説明資料・受領サイン)を残すこと。 |
2 | 入出国時の送迎 | 入国時・帰国時の空港送迎(保安検査場付近まで)や同行を実施。 移動スケジュールは余裕を持って設定する。 |
3 | 住居確保・生活支援 | 住居探しのサポート、連帯保証人の手配、賃貸契約の説明、銀行口座・携帯電話契約の補助。 初期費用や敷金の扱いは明示する。 |
4 | 生活オリエンテーション | 日本の基本ルール、公共機関の利用、交通マナー、災害時の避難等を説明。 目安は合計8時間程度(在留変更等の場合は最低4時間)。 |
5 | 公的手続等への同行 | 住民票、健康保険、年金、税関連の手続きに同行し、書類作成を補助。 手続きの期限と必要書類リストを事前に準備する。 |
6 | 日本語学習の機会提供 | JLPT N4/JFT-Basic 相当の語彙と業務表現をカバーする研修を用意。 職場内OJTと併用した継続学習計画が有効。 |
7 | 相談・苦情対応 | 職場や生活に関する相談窓口を設置(母語対応が望ましい)。 苦情は記録化し、対応の経過を管理する。 |
8 | 日本人との交流促進 | 地域行事や職場イベントへの参加支援。孤立防止と相互理解が目的。 参加は任意だが案内は積極的に行う。 |
9 | 転職支援(企業都合時) | 企業側都合で雇用終了する場合、転職先紹介や面接調整、必要な書類発行を支援。 離職時の給与処理や有給消化の扱いも明確に。 |
10 | 定期面談・行政通報 | 少なくとも3か月に1回は上司と面談し、労働条件や健康、ハラスメント等の問題を確認。 重大な違反があれば行政機関へ報告。 |
支援項目のうち、住居確保と日本語学習の提供はQOL(生活の質)に直結します。生活基盤が整えば仕事への意欲が高まり、特定技能2号への移行を目指す動機づけになります。したがって、これらは単なる「義務」ではなく、長期的な人材投資の中核と捉えてください。
計画の全部または一部を登録支援機関に委託することは可能ですが、受入れ企業が法的義務から免除されるわけではなく、委託先の適格性確認も必須となります。
参考:特定技能外国人を受け入れる際のポイント|出入国在留管理庁

特定技能試験の内容と合格の要件

外国人材が特定技能(1号)の在留資格を取得するには、テストをパスして「特定産業分野での相当程度の知識や経験」を有していることを証明しなければなりません。これには、技能評価試験と日本語能力の両方が含まれます。
技能評価試験(CBT方式)
自動車整備分野では、国土交通省の方針に基づき技能評価試験が実施されます。試験はコンピュータ・ベースド・テスティング(CBT)方式で行われ、受験者はコンピュータ画面上に表示される問題を解答します。この方式により、迅速かつ公平な評価が可能です。
特定技能1号の試験内容 | |
---|---|
学科 | 30問、試験時間60分、○×方式、合格は正解率65%以上 |
実技 | 3課題、試験時間20分、得点合計60%以上 |
合格証明書 | 企業側で雇用契約が確定している場合、受入れ機関を通じて交付されます |
なお、技能実習2号を良好に修了した者は、技能評価試験の免除対象となる場合があります。免除の可否や手続きについては、該当する実施要領で確認する必要があります。
日本語能力の要件
特定技能1号の在留資格申請には、業務遂行や生活に必要な基礎的な日本語能力が求められます。
- JFT-Basic(国際交流基金実施)合格
- またはJLPT N4相当の取得
N4レベルは、日常的な場面で使われる文や会話を理解できる程度の能力であり、職場での指示を安全に理解・実施するための基盤となります。試験は日本語で行われ、漢字にはルビが付されるなど受験者が理解しやすい配慮がなされています。
- 試験の形式・問題数・合格基準は採用計画に直結するため、必ず最新の実施要領を確認すること
- 合格証明書の交付手続きや申請書類、提出期限についても把握しておくとスムーズな採用が可能
- 技能実習2号修了者を対象に免除制度があることを知り、採用ルートの効率化に活用できる
- 日本語能力試験の選択肢や要件を整理して、入社前教育や生活支援に反映する
自動車整備分野における特定技能2号への移行要件

特定技能2号は、単なる在留期間延長ではなく、企業が熟練技能を持つ人材を長期的に確保するための仕組みです。
自動車整備分野で2号へ移行するには「実務経験」と「技能評価試験」の二つの要件を満たす必要があります。採用・育成の初期段階から移行を見据えた証憑管理とOJT設計を行ってください。
- 実務経験
- 地方運輸局長の認証を受けた事業場(認証工場)での3年以上の実務経験。
- 技能評価試験
- 自動車整備分野特定技能2号評価試験の合格。
- 学科40問(四択式)、試験時間80分、実技は3課題で試験時間30分
- 合格基準は学科60%程度、実技は得点合計60%以上(詳細は実施要領参照)
この2号試験で求められる能力は、1号試験よりもさらに高いレベルであり、日本の自動車整備士2号以上に匹敵する専門性が評価されます。
受入れ企業は特定技能外国人からの求めに応じ、対象者が実際に3年間以上の実務経験を有することを証明する書面を交付する義務があります。この証明書は2号への申請に不可欠な書類であるため、企業は特定技能1号人材の受入れ当初から2号への移行を希望するかどうかを確認し、必要な書類を整えておかなければなりません。
日本語要件について
自動車整備分野において、特定技能2号には日本語の要件はありません。これはすでにある程度の日本語能力を有しているとみなされているからです。
しかし評価技能試験は全て日本語で行われるため、実質的にはJLPTでN3相当の日本語能力が求められます。
参考:自動車整備分野「特定技能外国人」 受入れのためのガイドブック|国土交通省
自動車整備分野における特定技能人材採用フロー

特定技能外国人材の採用は単なる手続きではなく、将来の人材戦略そのものです。特定技能外国人を採用する流れは、主に以下の2つのルートが存在します。
- 海外からの採用(試験合格者)
- 国内在住者の採用(主に技能実習からの移行)
それぞれのルートでは企業に求められる対応も異なるため、それぞれに応じた申請フローと社内体制を整備しておきましょう。
海外からの採用
技能試験に合格した人材を海外から採用する場合の主な流れは、以下の通りです。
採用人数や職務内容などをもとに、募集要項を作成する。
送り出し機関と求人票(Job Order)をすり合わせ、候補者面接・技能確認を実施する。
賃金は日本人同等以上を明記。費用負担の所在を明確にする。
出入国在留管理庁へ申請。審査後、交付(または補正要求)。
COE交付後、候補者が在外公館でビザを取得し入国(国によりOEC等の追加手続あり)
空港出迎え、住居確保、銀行口座・保険手続のサポート、入社オリエンテーション準備
社会保険加入、労働条件の再確認、安全教育、OJT開始
支援実施記録の保管、必要届出(入管への報告)を行う。問題発生時は速やかに対応する。
特に気をつけたいのは、COEです。これは、日本に滞在する外国人の活動が在留資格の条件に適合しているか、事前に審査し法務大臣が証明する書類です。この証明書があることによって、在外公館でのビザ申請や日本の空港での審査が円滑に進みます。
- 雇用契約書(労働条件・賃金が明記されたもの)
- 支援計画書(入国時〜定着までの支援内容を具体化した計画)
- 受入れ機関の情報(会社登記・事業報告など)
- 認証事業場の証明(自動車整備分野では地方運輸局長の認証が必要)
- 技能評価試験合格証/日本語試験の証明(該当する場合)
国内在住者の採用
自動車整備分野において最も戦略的かつ即戦力の確保に有効なのが、既に日本国内で技能実習2号を良好に修了した外国人を特定技能1号へ移行させる経路です。
技能実習生として3年間、日本の自動車整備工場で実務経験を積み、技能実習2号を修了した者は、特定技能1号の技能試験および日本語試験が免除されます。
この制度の活用は、候補者の実務能力が既に確認済みであり、日本の生活や職場文化への順応性が高いため、企業にとって離職リスクが低く、即戦力として期待できる大きなメリットがあるでしょう。
その場合の主な流れは、以下の通りです。
社内に在留中の外国人(技能実習2号修了者等)を確認し、受入れ意向を確認する。
技能・日本語の免除適用可否(技能実習2号良好修了による免除など)と認証事業場での実務履歴の有無を確認する。
賃金条件の確認(日本人同等以上)や支援内容の合意。
必要書類を準備(雇用契約書、支援計画、技能実習修了証・在留カードコピー、認証事業場証明など)
出入国在留管理庁へ変更許可申請を提出。審査後、許可が下りれば在留カードの変更手続きを実施。
許可を受けてから、就業と同時に支援計画に沿った初期支援を実施。社会保険等の手続きは速やかに行う。
支援履歴を保存し、必要な届出や報告を行う。将来の2号移行に備え実務記録を整備する。
技能実習生が特定技能(1号)に移行すると、在留資格も変更になります。そのため、出入国在留管理庁へ在留資格変更申請を行う必要があります。

自動車整備分野でフィリピン人が選ばれる理由

自動車整備分野への人材輩出国として、特に注目されているのがフィリピンです。実際に整備の現場では多くのフィリピン人が活躍しています。その理由を探ってみましょう。
英語を活かせる高いコミュニケーション能力
フィリピンでは英語が公用語の一つとして教育や公的な場面で広く用いられており、職場で日本語が十分でない場合でも英語を介した指示確認や生活支援が行いやすい点は企業にとってもメリットでしょう。
さらに、フィリピンでは幼い時から複数言語の中で育つため、多言語の習得も早い傾向が見られます。実際に、日本で働くフィリピン人の多くが上手に日本語を操っています。
ホスピタリティ精神と明るい国民性
フィリピンでは国民の約9割がキリスト教徒であり、その教えに基づいた「フィリピーノ・ホスピタリティ」と呼ばれる、優しさやおもてなし精神を強く持っています。
彼らは初対面の人に対しても明るくフレンドリーに接し、常に笑顔を絶やさない国民性があるため、顧客や日本人社員との円滑なコミュニケーションを図りやすいというメリットがあります。整備の現場においても、丁寧な作業や、場を和やかにさせる貴重な存在として重宝されています。
高い協調性と勤勉さ
フィリピンでは大家族が多く、年長者への敬意や組織への協調性が自然と備わっています。この特性は、チームで作業を行うことも多い整備業の現場において、極めて大きなメリットとなるでしょう。同僚との連携や協力を積極的に行うため、連携作業が多い業務にも向いていると言えます。
また指示を忠実に守り、業務に対する責任感が強いという特徴も、丁寧な作業が求められる整備業界にとって理想的な人材と評価される理由です。高い能力を持ちながらも、現場の方針を理解し、組織ごとに求められる役割を忠実に果たす姿勢は、企業側にとって採用における大きな魅力となるでしょう。
親日的な国民性と協調性
フィリピン人の国民性は、一般にフレンドリーで社交的、そして協調性が高いと評価されています。彼らは初対面の人ともすぐに打ち解けられる傾向があり、これは日本の職場や地域社会への早期適応を可能にする大きな強みです。
また、フィリピンは親日的な国として知られており、日本文化への理解や順応性が高いため、受入れ企業側が多文化共生の環境調整を行う上での負担が比較的少ないでしょう。ホスピタリティ精神も高いため、接客を伴うディーラーなどの事業場でも、質の高いサービスに貢献することが期待できます。
特定技能試験における高い合格実績
フィリピンからの特定技能人材は、単に意欲が高いだけでなく、その知識や能力も高く評価されています。自動車整備分野の特定技能試験において、フィリピン人受験者は高い合格率を示しています。
これは、フィリピン国内の職業訓練学校における自動車整備に関する基礎教育が充実していることや、既に技能実習で日本での経験を積んでいる人材が多いことの証明と言えます。即戦力となりうる人材を見つけやすいのは、他国と比べても大きなアドバンテージとなっています。
参考:令和5年度自動車整備分野特定技能評価試験実施状況報告書|国土交通省

現場の声から学ぶ!フィリピン人材のメリットと企業が行うべき取り組みとは

実際に自動車整備分野においてフィリピン人材を受け入れている企業の事例を通して、彼らの強みや、企業に求められる取り組みなどについて考察します。
オートバックスの事例
大手自動車用品販売・整備チェーンのオートバックスグループは、2009年からフィリピン人技能実習生の受入れを開始し、これまでに約160名の人材を育成してきました。制度が整う以前から継続的に外国人育成を行ってきた先駆的な企業です。
フィリピン国内の職業訓練制度(TESDA等)があることによって、自動車整備の基礎教育を受けた人材が多く、即戦力として全国のオートバックスで活躍しているとのこと。現場のマネージャーは「外国人技能実習生を受け入れるにあたり、店舗スタッフに対してもいい刺激となり、今まで以上に“相手を理解する”“相手に伝える”ということに注力するようになりました。その結果、実習生とのコミュニケーションに限らず、スタッフ間やお客様とのやりとりも円滑になりました」と述べ、フィリピン人材の受け入れが単に人手不足の解消にとどまらず、日本人社員の指導力やコミュニケーション能力の向上にもつながっているとその成果を強調しています。
さらに、オートバックスでは、日本で初めて自動車整備分野における特定技能1号資格者が誕生しました。以降、技能実習修了者から9名が同資格を取得し、2020年時点で10名のフィリピン人スタッフが特定技能として継続勤務しています。彼らはより高度な技術習得を目指して活躍中であり、同社は「育成から戦力化、そしてキャリア形成」までを見据えた長期的な人材戦略を実践しています。
参考:フィリピンの外国人技能実習生達と歩んできた15年|オートバックスセブン
横山モータースの事例
フィリピン人研修生を受け入れてきた横山モータースの事例は、フィリピン人材の活用が地方の人手不足対策として有効であることを示しています。同社専務は、外国人を受け入れる判断は、地域社会の活力を維持し、事業の継続性を確保するために必要不可欠な対応策と述べています。
現場では最初、日本語での意思疎通に課題がありましたが、スタッフが英語やジェスチャーを交えて指導を工夫したことで、作業効率が改善。社員全体の協力意識が強まり、職場に良い連帯感が生まれたといいます。
同社専務は「フィリピン人たちは、誰よりも早く出社してきます。そして掃除をしているんです。素直ですし、仕事も一生懸命です」とも述べています。
さらに横山モータースでは、生活面の支援にも力を入れています。地域のイベントや行事に参加を促し、地元住民との交流機会を作ることで、「働く場所」から「暮らす場所」への定着へとつなげています。これにより離職率が低く、外国人スタッフが安心して長期勤務できる環境を実現させています。
参考:【外国人活用事例】整備業界(16) 株式会社横山モータース|BRIDGE
教訓:現場から導かれる受入れ成功の鍵
これらの事例から、自動車整備業界で外国人材の受入れを成功させるための共通した教訓が見えてきます。
- 1. 計画的なOJTと育成設計
-
単に即戦力を求めるのではなく、整備士資格や特定技能2号への移行も視野に入れた長期的な育成計画を立てることが、企業・人材双方の利益を生みます。現場では、業務マニュアルの整備や指導担当者の指定が有効でした。
- 2. 多文化理解を前提とした職場づくり
-
日本語指導や異文化理解の研修を行うことで、誤解や摩擦を防ぎ、チームとしての協働性を高めることができます。これは、受入企業側の社員教育にも好影響を与えます。
- 3. 生活支援と地域との連携
-
仕事だけでなく、住居、交通、地域行事など生活面のサポートが、離職防止に大きく寄与します。地域コミュニティとの関わりを促す工夫は、地方企業ほど有効です。
- 4. 法令遵守・キャリア支援を軸とした信頼関係の構築
-
特定技能2号への移行支援や在留手続きの正確な対応は、企業の信頼性を高め、人材から選ばれる企業になる要因となります。
フィリピン人材受入れに必要なDMWと送り出し機関

特定技能フィリピン人材の採用には、日本側の要件・手続きだけではなく、フィリピン政府側の組織(DMW/旧POEA)と、現地の送り出し機関についての理解が不可欠です。
DMWと送り出しルールの要点
フィリピンは国民の多くが海外で働いているという現状があり、労働者を保護するため、DMW(海外労働者省)という行政機関が海外への送出を厳格に管理・監督しています。そのDMWの窓口として各国に設置されているのが、MWO(移住労働者事務所)です。MWOは企業が作成した雇用契約や求人票がフィリピンの労働基準に合致しているかを認証(Verification)します。MWOの認証を経ることで、フィリピン政府から正式に採用計画が承認されます。
フィリピンではエージェントを介さない企業による直接雇用は原則禁止されており、DMW認定の送り出し機関を通じた手続きが必要となります。
そのため日本の企業がフィリピンから特定技能人材を直接雇用しようとする場合、まずはDMW認定の送り出し機関と人材募集・雇用に関する取り決めを締結し、その上でMWOへの申請手続きを行い、認証を得る必要があります。
またDMWは不当な手数料徴収を禁じる通達を出しており、紹介料や手数料の取り扱いには法的なルールが適用されます。とはいえ、実務上は運用に差が出ており、企業側が想定外の費用負担や説明不足に直面するケースが散見されます。企業側は契約時に費用負担の明細を契約書で明確化してください。
送り出し機関選定の重要性
フィリピン人採用における最大の実務リスクの一つは、送り出し機関の選択です。なぜなら、一部には不当な費用請求や書類偽造、質の低い日本語教育といった悪質な運営を行う機関が存在するからです。
そうした事案は、労働者本人に深刻な被害をもたらすだけでなく、受け入れ企業にも失踪・不法就労・労務トラブルといった重大な負担を引き起こします。
したがって、送り出し機関の選定は「人が来るかどうか」だけで判断してはいけません。倫理性・透明性・法令順守を含めた総合的な適性評価が不可欠です。
採用ステップ
DMWに認定された現地の送り出し機関を通じて契約を締結します。
送り出し機関を通じて、求人票(Job Order)および雇用契約案をMWOに提出し、フィリピン側の基準に沿うか確認を受けます。必要があれば契約内容の修正や追加書類の提出を求められます。
MWOの認証で必要条件が満たされたことを確認したうえで、候補者と正式な雇用契約を最終確定(署名)します。実務上はこの確定をもって日本側の在留手続きを進めるのが安全です。
日本側での在留資格申請に必要な書類を揃え、出入国在留管理庁に申請します。COE の有効期限に注意し、フィリピン側手続きを完了させた上で申請することが望ましいです。
OECはフィリピン出国時に提示が求められる証明書です。これを取得することで、合法的に出国・入国が可能となります。日本在住者でも、場合によっては OEC 取得が必要になることがあります。
日本在住のフィリピン人材を雇用する場合の注意点
すでに日本国内に在留しているフィリピン人材を特定技能として雇用する場合でも、フィリピン政府の規定に基づき、MWOによる認証手続きが原則として必要となります。
これは、たとえ日本国内で在留資格の変更を行うケースでも、フィリピン政府の視点からは「海外就労扱い」となるためです。MWOを通じた認証手続きとOECの取得を怠り、外国人が一時的にフィリピンへ帰国した場合、出国時にOECの提示を求められて提示できなければ、日本への再入国が不可能になるという深刻な事態が発生する可能性があります。
受入れ企業は、この重大なリスクを理解し、日本在住者であっても、DMW認定の人材紹介会社を経由した認証手続きを確実に行う必要があります。
参考:DMW

送り出しカフェの活用

DMWへの申請、送り出し機関の選定などの手続きが必要なフィリピン人材の採用を成功させるには、専門のサポート機関を利用するのが最も効率的かつ効果的です。
送り出しカフェは、フィリピン人労働者の採用を検討している日本企業を対象に、フィリピン現地の送り出し機関の紹介・仲介を行っています。
フィリピン政府のライセンスを持つ正規の送り出し機関と提携しており、年間2,000人を海外に送り出す実績を有するパートナーなど、実績豊富な機関と連携しているのが大きな特徴です。
送り出しカフェ活用のメリット
- 信頼性のある送り出し機関の紹介
-
フィリピン政府公認のライセンスを持つ送り出し機関と提携しているため、違法・不透明な業者を避けられる。
- 人材の母集団が大きい
-
提携大学・職業訓練校から約7,000人規模の候補者がいるため、必要な職種に合った人材を探しやすい。
- 特定技能16分野に対応
-
介護・外食・建設など幅広い業種の求人に対応できる。
- 安心の日本語対応
-
日本人スタッフが窓口となるため、言語や文化の違いによる誤解・トラブルを減らせる。
- 採用から入国後までワンストップ支援
-
求人票作成、面接調整、ビザ・MWO申請、入国後の定着支援までトータルサポート。
- 手続きの負担軽減
-
フィリピン側で必要な複雑な申請書類や手続きを代行・支援してくれる。
- 日本語教育サポート
-
採用前から就労後まで継続的に日本語教育を行う体制があり、現場でのミスや離職リスクを軽減できる。
- 費用や採用リスクの低減
-
信頼性の低い送り出し機関を選んで失敗するリスクを減らし、スムーズな採用につながる。
送り出しカフェを活用することによって、DMWのルール確認、信頼できる送り出し機関の選定、明確な契約とスケジュール管理などを円滑に行うことができるでしょう。
\ これまでの実績はこちら /
まとめ:自動車整備業界の未来に必要な外国人材の活用

特定技能制度は、現在の自動車整備業界が直面する深刻な人手不足に対し、最も現実的かつ効果的な解決策の一つといえます。この制度により、国内産業の基盤を支える人材を、日本国内外から安定的に確保することが可能となりました。
なかでもフィリピン人材は、技能実習での実務経験や高い教育水準を背景に、基礎能力と日本の技能継承への意欲を兼ね備えた人材が多く、長期的な人材戦略の中核を担う存在となり得ます。
企業担当者に求められるのは、この制度を単なる労働力補完策としてではなく、未来の整備産業を支える専門人材を育成する仕組みとして捉える視点です。第一に法令遵守の徹底、そして生活支援や教育環境の整備を通じて、受け入れ体制を戦略的に構築することが重要です。
とはいえ、特定技能人材を受け入れるための手続きは複雑で、特に中小企業にとっては自社だけで行うのは非常に困難でしょう。採用、ビザ手続き、そして定着支援の課題解決まで、専門家によるサポートが不可欠です。
私たち送り出しカフェは、信頼できる送り出し機関の紹介からビザ申請・入国手続き、日本語教育に至るまで、企業向けに一貫したサポートを提供しています。
フィリピン人材の採用を検討しているのであれば、まずは一度、お気軽にご相談ください。
\ ご相談はこちらから /