特定技能外国人を受け入れる際、企業には「生活オリエンテーション」の実施が義務付けられています。しかし、具体的に何を説明すればよいのか、どのタイミングで実施すべきなのか、悩む人事担当者は少なくありません。生活オリエンテーションは、外国人材が日本で安心して働き、生活するための基盤を整える支援です。
本記事では、特定技能制度における生活オリエンテーションの概要から実施内容、注意点まで体系的に解説します。外国人労働者の採用を検討している人事担当者向けの内容となっていますので、ぜひご覧ください。
\ 送り出し機関紹介サービス /
生活オリエンテーションとは

生活オリエンテーションとは、特定技能外国人が日本で円滑に生活を開始できるよう、必要な情報を提供する支援のことです。出入国在留管理庁が定める「1号特定技能外国人支援計画」の義務的支援項目の一つであり、受入れ企業または登録支援機関が実施しなければなりません。外国人材が日本の生活ルールや行政手続きを理解することで、安定した就労環境の構築につながります。
特定技能制度における位置づけ
特定技能1号外国人を受け入れる企業は、「1号特定技能外国人支援計画」を作成し、以下の義務的支援を実施する必要があります。
| NO | 支援項目 | 概要 |
|---|---|---|
| 1 | 事前ガイダンス | 雇用契約内容・入国手続き等の説明 |
| 2 | 出入国する際の送迎 | 空港等への送迎、出国時の見送り |
| 3 | 住居確保・生活に必要な契約支援 | 住居の確保・締結支援、ライフライン手続きの補助 |
| 4 | 生活オリエンテーション | 日本での生活ルール・行政手続き等の情報提供 |
| 5 | 公的手続等への同行 | 届出や手続きへの同行、書類作成の補助 |
| 6 | 日本語学習の機会の提供 | 日本語教室や教材の情報提供 |
| 7 | 相談・苦情への対応 | 生活上・職場の問題への対応 |
| 8 | 日本人との交流促進 | 地域行事等への参加機会の提供 |
| 9 | 転職支援 | 受入れ企業都合による契約解除時の支援 |
| 10 | 定期的な面談・行政機関への通報 | 3ヶ月に1回以上の面談実施 |
生活オリエンテーションはこれら10項目の一つとして位置づけられており、外国人材が安心して日本で生活・就労するための基盤を整える役割を担っています。なお、特定技能2号については義務的支援の対象外となります。
実施が義務付けられる理由
外国人材が日本で安心して生活するには、言語や文化の違いを乗り越えるための支援が不可欠です。母国とは異なる交通ルール、ゴミの分別方法、医療機関の利用方法など、日常生活の基本的な知識がなければ、トラブルに発展する可能性があります。
また、届出や手続きを怠ると在留資格に影響を及ぼすケースもあるため、正確な情報提供が求められます。こうした背景から、法令により生活オリエンテーションの実施が義務化されました。外国人材の保護と円滑な受入れを実現するうえで、欠かせない仕組みといえます。
事前ガイダンスとの違い
生活オリエンテーションと事前ガイダンスは、実施時期と目的が異なります。
| 項目 | 事前ガイダンス | 生活オリエンテーション |
|---|---|---|
| 実施時期 | 入国前(在留資格認定証明書交付後) | 入国後(または在留資格変更後、遅延なく) |
| 主な目的 | 雇用条件・入国手続き説明 | 日本生活ルール・行政手続き情報提供 |
| 所要時間 | 明記なし | 少なくとも8時間以上 |
| 実施方法 | 対面またはテレビ電話等 | 原則対面、母語対応推奨 |
事前ガイダンスは入国準備に関する情報が中心であるのに対し、生活オリエンテーションは入国後の実生活に焦点を当てた支援となっています。


生活オリエンテーションの実施内容

生活オリエンテーションでは、外国人材が日本で生活するために必要な情報を幅広く提供します。出入国在留管理庁の運用要領では、説明すべき事項が具体的に定められており、受入れ企業はこれらを漏れなく伝えなければなりません。内容は日常生活に関するものから行政手続き、緊急時の対応まで多岐にわたります。
次に、具体的な説明項目を確認していきます。
参考:
出入国在留管理庁 特定技能外国人受入れに関する運用要領
出入国在留管理庁 外国人生活支援ポータルサイト
日常生活に関する情報提供
外国人材が日本で生活を始める際に必要となる基本的な情報を提供します。
| 分野 | 説明内容 |
|---|---|
| 金融機関 | 銀行口座の開設方法 ATMの利用方法 |
| 住居 | 住居の確保 契約時の注意点 退去時のルール |
| 医療機関 | 病院の受診方法 健康保険の利用 アレルギー対応 |
| 交通機関 | 電車・バスの利用方法 自転車・自動車の運転ルール |
| 公共施設 | 図書館 市区町村役場 公民館等の利用方法 |
| 生活必需品 | 日用品の購入場所 生活に必要な物品の入手方法 |
| ゴミ出し | 分別方法 収集日 地域ごとのルール |
| マナー | 騒音 喫煙 近隣住民との付き合い方 禁止事項 |
| 日本語学習 | 初歩的な日本語 日本語教室や教材の情報 |
母国語や本人が理解できる言語で説明し、資料を渡すことが望ましいでしょう。出入国在留管理庁では無料でダウンロードできる多言語資料も提供しており、役立ちます。
行政手続きに関する説明
日本で生活するうえで必要となる届出や手続きについて説明します。
| 手続き | 内容 | 届出先 |
|---|---|---|
| 住居地届出 | 入国後14日以内に届出 | 市区町村役場 |
| 在留カード関連 | 記載事項変更 紛失時の届出 在留期間更新の申請 | 出入国在留管理庁 |
| 健康保険制度 | 加入手続き 保険料の負担 利用方法 | 市区町村役場 |
| 年金制度 | 加入義務 保険料 脱退一時金の仕組み | 市区町村役場・年金事務所 |
| 税金 | 住民税の課税の仕組み 納付方法 | 市区町村役場 |
| マイナンバー | 通知カードの受領 利用方法 | 市区町村役場 |
届出を怠ると在留資格の更新に影響する場合があるため、期限や手続き方法を正確に伝える必要があります。
相談・苦情窓口の案内
外国人材が困ったときに相談できる窓口の情報を提供します。
| 相談先 | 対応内容 | 連絡先の例 |
|---|---|---|
| 受入れ企業担当者 | 職場・生活全般の相談 仕事に関する悩み | 所属機関の連絡先 |
| 登録支援機関 | 支援計画に関する相談 | 委託先機関の連絡先 |
| 出入国在留管理庁関連窓口 | 多言語での生活・在留相談 | 外国人在留総合インフォメーションセンター (例: 0570-013904) |
| 労働基準監督署 | 雇用・労働条件に関する相談 | 管轄の労働基準監督署 |
| 大使館・領事館 | 母国の行政手続き 海外の家族に関する相談 | 各国大使館・領事館 |
相談窓口の連絡先は、英語、中国語、韓国語など本人が理解できる言語で記載した資料を渡すと効果的です。こうしたサービスを活用することで、外国人材の不安軽減につながります。
緊急時の対応方法
地震や火災などの災害時、犯罪被害に遭った際の対応方法を説明します。
| 緊急事態 | 対応方法 | 連絡先 |
|---|---|---|
| 火災・救急 | 119番に電話 住所と状況を伝える | 消防署 |
| 犯罪・事故 | 110番に電話 警察署に届出 | 警察署 |
| 防犯 | 不審者への対応 戸締りの徹底 | 警察署・地域の防犯窓口 |
| 地震 | 身を守る行動 避難場所への移動 | 市区町村の防災窓口 |
| 気象災害 | 気象情報の確認 避難指示への対応 | 気象庁・自治体 |
防災に関する情報は、出入国在留管理庁や自治体が提供する多言語の動画や資料を活用すると理解が深まります。外国人向けの防災ガイドも多数公開されており、避難場所の案内や緊急連絡先一覧を事前に配置しておくことも有効です。あっという間に状況が変わる災害時に備え、日頃から情報を共有しておくことが大切です。

生活オリエンテーションの実施方法

生活オリエンテーションを効果的に行うためには、適切なタイミングと方法で実施することが求められます。出入国在留管理庁の運用要領では、実施時期や所要時間、使用言語などの基準が示されています。外国人材が内容を十分に理解できるよう、実施体制を整えることが重要です。
実施のタイミングと時間
生活オリエンテーションは、外国人材の入国後できるだけ早い段階で実施します。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 実施時期 | 入国後、住居地届出を済ませた後速やかに |
| 所要時間 | 概ね8時間以上 |
| 実施形式 | 原則として対面で実施 |
| 分割実施 | 複数日に分けて実施することも可能 |
8時間以上という基準は、説明すべき内容が多岐にわたるためです。一度に全てを伝えると外国人材の理解が追いつかない場合があるため、複数回に分けて実施する方法も認められています。業務開始前に修了させることが望ましいでしょう。
使用言語と通訳の確保
生活オリエンテーションは、外国人材が十分に理解できる言語で実施する必要があります。
| 対応方法 | 内容 |
|---|---|
| 母国語での説明 | 本人の母国語で直接説明 |
| 通訳の配置 | 日本語と母国語の通訳者を手配 |
| 多言語資料の活用 | 英語、中国語、ベトナム語等の資料を使用 |
| 動画・視聴覚教材 | 出入国在留管理庁提供の多言語動画を活用 |
日本語能力が十分でない外国人材に対して日本語のみで説明することは認められていません。通訳者の確保が難しい場合は、登録支援機関への委託や多言語対応の資料・動画を活用する方法があります。日本語能力試験を取得している外国人材であっても、専門用語の理解には配慮が必要です。
実施者の要件と体制
生活オリエンテーションの実施者には、一定の要件が求められます。
| 実施者 | 要件・役割 |
|---|---|
| 受入れ企業の担当者 | 支援責任者または支援担当者として届出済みであること |
| 登録支援機関の職員 | 支援業務を適正に行える体制を有すること |
| 通訳者 | 外国人材が理解できる言語に対応できること |
実施者は、説明内容を正確に伝えられる知識を持っている必要があります。受入れ企業が自社で実施する場合は、担当者への事前研修や資料準備が欠かせません。登録支援機関に委託する場合でも、受入れ企業として内容を把握しておくことが求められます。
生活オリエンテーションの注意点

生活オリエンテーションを適切に実施するためには、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。形式的な実施にとどまると、外国人材が内容を理解できず、後々トラブルにつながる可能性も否定できません。法令遵守の観点からも、記録の作成・保管や理解度の確認を徹底することが求められます。
記録作成と保管の義務
生活オリエンテーションの実施後は、記録を作成し保管する義務があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記録すべき事項 | 実施日時 実施場所 実施者 説明内容 使用言語 |
| 確認書類 | 外国人本人の署名入り確認書 |
| 保管期間 | 雇用契約終了後または在留期間終了後、1年以上 |
| 提出義務 | 出入国在留管理庁からの求めに応じて提出 |
記録は、定期届出や監査の際に確認される場合があります。実施内容を証明できる書類を整備しておくことで、コンプライアンス上のリスクを回避できます。確認書には外国人本人の署名をもらい、説明を受けたことの証拠として保管してください。
形骸化を防ぐポイント
生活オリエンテーションが形式的なものにならないよう、以下の点に注意が必要です。
| 課題 | 対策 |
|---|---|
| 一方的な説明になる | 質問の時間を設け、双方向のコミュニケーションを図る |
| 内容が伝わらない | 母国語での説明 図解や動画の活用 |
| 情報量が多すぎる | 複数回に分けて実施 優先度の高い内容から説明 |
| 資料を渡すだけ | 口頭での説明を必ず行い、資料は補助として活用 |
外国人材の文化や宗教的背景に配慮することも大切です。食事制限や生活習慣の違いを理解し、個別の状況に応じた情報提供を心がけることで、信頼関係の構築につながります。
なお、介護分野など業種によっては、業務に関連した一般的な知識も併せて説明すると効果的です。
外国人の理解度確認方法
説明した内容を外国人材がどの程度正しく理解しているか、確認する仕組みを設けることが重要です。
| 確認方法 | 具体例 |
|---|---|
| 質疑応答 | 説明後に質問の時間を設ける |
| 復唱・確認 | 重要事項について本人に復唱してもらう |
| チェックリスト | 理解した項目にチェックを入れてもらう |
| フォローアップ | 後日改めて理解度を確認する面談を実施 |
理解度の確認は、オリエンテーション終了時だけでなく、定期面談の際にも行うと効果的です。入国直後は情報量が多く、すべてを覚えきれない場合もあるため、引き続き継続的なサポート体制を整えておくことが望ましいでしょう。知っておくべき情報を段階的に伝えることで、理解の定着を図れます。
登録支援機関への委託について

生活オリエンテーションは、受入れ企業が自社で実施する方法と、登録支援機関に委託する方法があります。特に初めて特定技能外国人を受け入れる企業や、多言語対応が難しい企業にとって、登録支援機関の活用は有効な選択肢です。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に応じた判断が求められます。
参考:出入国在留管理庁 登録支援機関(Registered Support Organization)
自社実施と委託の比較
生活オリエンテーションを自社で実施する場合と委託する場合には、それぞれメリット・デメリットがあります。
| 項目 | 自社実施 | 登録支援機関への委託 |
|---|---|---|
| 費用 | 人件費・資料作成費のみ | 委託費用が発生 |
| 多言語対応 | 自社で通訳者を確保する必要あり | 機関が対応可能な場合が多い |
| ノウハウ | 自社で蓄積・習得が必要 | 専門的な知識・経験を活用できる |
| 柔軟性 | 自社の状況に合わせて調整可能 | 機関のスケジュールに依存する場合あり |
| 外国人との関係 | 直接コミュニケーションが取れる | 機関を介した関係になる |
自社で実施する場合は、外国人材との信頼関係を直接構築できる利点があります。一方、委託する場合は専門機関のノウハウを活用でき、担当者の負担を軽減できます。多言語対応が難しいなら、登録支援機関への委託を検討するとよいでしょう。
登録支援機関の選び方
登録支援機関を選定する際は、以下のポイントを確認することが重要です。
| 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 登録の有無 | 出入国在留管理庁に登録されているか |
| 対応言語 | 受け入れる外国人材の母国語に対応しているか |
| 支援実績 | 特定技能外国人の支援実績が十分にあるか |
| 対応エリア | 自社の所在地で支援を受けられるか |
| 費用体系 | 料金が明確で、追加費用の有無が説明されているか |
| 教育体制 | 外国人材への研修・教育サービスが充実しているか |
登録支援機関の一覧は、出入国在留管理庁のサイトで公開されています。複数の機関を比較し、自社のニーズに合った機関を選定してください。実績や評判を確認するため、他の受入れ企業様からの紹介を得る方法も有効です。
委託時の確認事項
登録支援機関に委託する場合でも、受入れ企業としての責任がなくなるわけではありません。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 支援内容の詳細 | どの支援項目を委託するか明確にする |
| 実施報告の方法 | オリエンテーション実施後の報告体制 |
| 記録の共有 | 実施記録や確認書の写しを受け取る |
| 緊急時の連絡体制 | トラブル発生時の対応フローを確認 |
| 契約内容 | 委託契約書の内容を十分に確認する |
委託後も、外国人材の生活状況を把握し、必要に応じてフォローアップを行う姿勢が大切です。登録支援機関との連携を密にし、支援の質を維持することで、外国人材の定着率向上につながります。

まとめ|生活オリエンテーションで外国人材の定着を支援

生活オリエンテーションは、特定技能外国人が日本で安心して生活・就労するための基盤を整える重要な支援です。本記事では、制度における位置づけ、実施すべき内容、具体的な方法、注意点、登録支援機関への委託について解説しました。
日常生活や行政手続き、緊急時対応など幅広い情報を、外国人材が理解できる言語で丁寧に伝えることが求められます。形式的な実施にとどまらず、外国人材の理解度を確認しながら進めることで、職場への定着率向上にもつながるでしょう。
自社の体制やリソースを踏まえ、必要に応じて登録支援機関の活用も検討してください。新着の制度情報にも注意を払い、常に最新の内容で実施することが大切です。

