【漁業】特定技能2号の熟練外国人を受け入れるための完全ガイド

特定技能2号 漁業

日本の漁業分野は今、深刻な人手不足という大きな課題に直面しています。この問題の解決策として注目されているのが、フィリピンをはじめとする外国人材の活用です。

既に多くの企業が、技能実習制度や特定技能1号の在留資格を持つ外国人を採用し、現場の貴重な戦力として受け入れていることでしょう。彼らの実直な働きぶりは、日本の漁業を支える上で欠かせないものとなっています。

しかし、特定技能1号には「通算在留期間5年」という、動かせない上限があります。企業担当者の中には、「せっかく技能を習得し、現場を理解してくれた優秀な人材が、5年で帰国してしまうのは大きな損失だ」と、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

そうした問題の解決策が、特定技能2号外国人の受入れです。2023年の改正により、漁業分野でも特定技能2号人材の受入れが可能になりました。

特定技能2号は在留期間の上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も可能となる画期的な在留資格です。これは、企業にとって熟練した技能を持つ人材を「指導者・管理者補佐」として長期的に確保できる道が開かれたことを意味します。

本記事では、漁業分野で特定技能2号の人材(特定技能1号からの移行者を含む)を受け入れるために、企業担当者が知っておくべき制度の概要、1号との決定的な違い、外国人材に求められる具体的な要件、そして受入れ企業が行うべき手続きについて、関係省庁の情報を基に網羅的に解説します

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目次

そもそも特定技能2号とは?1号との決定的な違い

違いをイメージしたAとB

まず、特定技能制度の全体像と、1号と2号の違いについて正確に理解することから始めましょう。この違いを把握することが、長期的な人材戦略を立てる上での基礎となります。

特定技能制度の基本

特定技能制度は、国内の人材確保が困難な状況にある特定の産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的として2019年に創設された在留資格制度です

そして特定技能の中でも、1号と2号という異なる在留資格が存在します。

特定技能1号

特定の産業分野において、相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格。

特定技能2号

特定の産業分野において、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格。

従来、特定技能2号は建設分野と造船・舶用工業分野のみが対象でしたが、2023年6月の制度改正により、漁業分野を含む計11の分野で受入れが可能となりました。

1号と2号の違い

特定技能1号と2号の違いは、企業の人材運用に直結します。以下の表で主な違いを確認しましょう。

スクロールできます
比較項目特定技能1号特定技能2号
在留期間通算で上限5年(更新は可能)上限なし(更新が必要)
家族帯同不可可能(配偶者・子)
技能水準相当程度の知識・経験熟練した技能(指導・管理レベル)
日本語能力水準生活や業務に必要な水準(JLPT N4)漁業分野はJLPT N3レベルの日本語能力が求められる
受入れ機関の支援支援計画に基づく義務的な支援が必要支援計画に基づく義務的な支援は不要

企業にとっての特定技能2号のメリット

特定技能2号の導入は、受入れ企業にとって以下のような大きなメリットをもたらします。

  1. 熟練人材の長期・安定的確保

最大のメリットは、在留期間の上限がなくなることです。技能実習や1号で育成した優秀な人材が、5年で帰国するという「育成コストの損失」を防ぎ、企業の基幹人材として長期的に活躍してもらうことが可能になります。

  1. 現場リーダー・指導者の育成

2号の要件は「熟練した技能」であり、他の作業員への指導や工程管理が業務に含まれます。これにより、外国人材を現場のリーダーや管理者補佐として育成し、組織全体の生産性向上につなげることができます。

  1. 採用・教育コストの削減

人材が定着することで、新たな人材を採用し、一から教育するコストと手間を大幅に削減できます。

  1. 採用時のインセンティブ

フィリピン等で採用活動を行う際、「特定技能2号へのキャリアパスがあり、将来的に家族と日本で暮らせる可能性がある」と提示できることは、他の企業に対する強力な差別化要因となり、優秀な人材の確保に繋がります。

外国人材にとってのメリット

一方で、働く外国人材にとっても2号は大きな目標となります。

  1. 日本での長期的なキャリア形成

在留期間の上限がなくなり、安定して働き続けることができます。

  1. 家族との生活

要件を満たせば配偶者や子供を日本に呼び寄せ、一緒に暮らすことが可能です。これは、働く上で非常に大きな動機付けとなるでしょう。

  1. 永住権への道

2号として一定期間(原則10年)日本に在留し、要件を満たせば、永住許可申請への道も開かれます。

これらのメリットは、人材の離職を防ぎ、仕事へのモチベーションを高く維持してもらう上でも重要です。

参考:特定技能制度 | 出入国在留管理庁

漁業分野における特定技能2号の対象業務

漁船で水揚げされた大型のマグロをクレーンで積み下ろす様子。漁業現場の作業風景と海上の船。

特定技能2号では、1号よりも高度な業務に従事することが求められます。漁業分野における1号と2号の業務内容の違いを明確にしましょう。

1号の業務区分:「漁業」と「養殖業」

特定技能1号の漁業分野は、大きく2つの業務区分に分かれています。

  1. 漁業(漁船漁業)
    • 漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保 等の作業。
  2. 養殖業
    • 養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲・処理、安全衛生の確保 等の作業。

これらは、いわば現場の作業員として漁業の基礎的な業務を行うものです

特定技能2号で求められる「指導・管理」業務

特定技能2号は、これらの1号の業務を熟知していることに加え、以下の「指導・管理」に係る業務を行うことが求められます。

  1. 漁業(漁船漁業)
    • 漁船における操業の指揮監督者を補佐する業務、または他の作業員を指導しながら作業に従事し、作業工程を管理する業務。
  2. 養殖業
    • 養殖現場において、養殖を管理する者を補佐する業務、または他の作業員を指導し、作業工程を管理する業務。

つまり、特定技能2号の人材は、単に作業を行うだけでなく、複数の作業員(他の特定技能1号外国人や日本人作業員を含む)をまとめ、指導し、作業全体の進捗や安全を管理する、いわば「現場のリーダー」または「管理者の補佐」としての役割を担うことが期待されています

このレベルの人材を確保できることは、特に人手不足と高齢化が進む漁業の現場において、事業の継続と発展に不可欠と言えるでしょう。

参考:特定技能2号の各分野の仕事内容(Job Description) | 出入国在留管理庁

漁業で特定技能2号への移行に必要な要件

木の机の上に積まれたノートと、黄色のペン立てに入った鉛筆や消しゴム。学習や試験準備のイメージ。

特定技能1号から2号へ移行するためには、外国人材は以下の3つの主要な要件を満たす必要があります。企業はこれらの要件を理解し、人材の育成計画に組み込むことが必要です。

【要件1】技能水準:「2号漁業技能測定試験」の合格

2号にふさわしい「熟練した技能」を有していることを証明するため、専門の試験に合格しなければなりません

試験は漁業と養殖業とで異なります。

  • 2号漁業技能測定試験(漁業)
  • 2号漁業技能測定試験(養殖業)

(※1号で従事していた業務区分に対応する試験を受験します)

試験内容学科試験と実技試験で構成されます。内容は、1号の基礎的な知識・技能に加え、漁労長や養殖管理者の補佐として必要な、より高度な専門知識、工程管理、安全管理、指導に係る知識等が問われます。
試験方式コンピュータ・ベースド・テスティング(CBT)方式で実施されます。

試験は、農林水産省(水産庁)の監督のもと、一般社団法人 大日本水産会が実施主体となり、試験運営はプロメトリック株式会社が行っています。受験の申込や日程の確認は、プロメトリックのウェブページから行います。

【要件2】実務経験:2年以上の「管理・指導」に係る経験

特定技能1号から2号への移行には、管理や指導を伴う一定以上の経験が求められます。

必要な経験
特定技能2号の試験に合格するだけでは不十分で、実際に「管理・指導」に係る実務を経験していることが必要です。出入国在留管理庁や水産庁の運用要領等では、この実務経験について「2年以上」の期間が求められています。
具体的な経験の内容
漁業(漁船漁業)の場合漁船における操業の指揮監督者を補佐した経験、または他の作業員を指導し、作業工程を管理した経験。
養殖業の場合養殖現場で養殖を管理する者を補佐した経験、または他の作業員を指導し、作業工程を管理した経験。

企業が準備すべきこと

単に特定技能1号として5年間働いただけでは、この「実務経験」要件は満たせません。企業は、将来2号に移行させたい人材に対し、特定技能1号の在留期間中から、意識的にリーダー補佐としての業務(新人への指導、日々の作業の進捗確認と報告、安全確認の補佐など)を任せる必要があります。

そして、その業務実績を客観的に証明できる資料(業務日報、指導記録、上司による評価書など)を整備しておくことが極めて重要です。在留資格変更許可申請の際、これらの経験を証明する書類の提出が求められます。

【要件3】日本語能力:「日本語能力試験(JLPT) N3」以上の合格

原則として、多くの分野で2号移行時の日本語試験は免除されます。特定技能1号の時点で一定の日本語能力(N4程度)が確認されており、かつ日本での実務経験を積んでいるため、一定程度の日本語能力を有しているとみなされるからです。

しかし、漁業分野は例外です。 漁業分野では、特定技能2号へ移行するために、日本語能力が測られます。これは、漁業の現場においては天候の急変、機械の操作、水辺での作業など、常に危険が伴い、緊急時や不測の事態において、日本語能力が安全や命に直結するからです。

求められる水準

漁業分野では、「日本語能力試験(JLPT) N3」以上、または「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」でN3相当以上の水準に合格していることが必要です

N3は、「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」水準です。1号のN4が「基本的な日本語を理解することができる」レベルであったのに対し、N3では、業務上のやや複雑な指示を理解し、自らも指導や報告を行うための語彙力と読解力、聴解力が求められます。

企業としては、このN3合格が2号人材の育成において一つのハードルとなることを認識し、計画的な日本語学習の支援(教材の提供、学習時間の確保、外部講師の活用など)を行うことが、人材の長期定着に直結します。

参考:漁業分野 | 出入国在留管理庁

2号人材を受入れるために企業に求められる要件と手続き

雇用契約書とペン、眼鏡が机の上に置かれた様子。雇用条件や契約手続きのイメージ。

外国人材が2号の要件を満たしても、受け入れる企業側(特定技能所属機関)の準備が整っていなければ移行はできません。企業が行うべき主要な手続きと準備について確認しましょう。

漁業特定技能協議会への加入

漁業分野で特定技能外国人を1人でも受け入れる企業は、「漁業特定技能協議会」に加入する義務があります

協議会の役割は、制度の適正な運用、受入れ機関に対する指導・助言、地域の人手不足の状況の把握、情報共有などを行うことにあります。

特定技能1号の受入れ開始時から既に加入しているはずですが、2号を受け入れる際も、引き続き構成員であることが必要です。未加入の場合は、水産庁のウェブページで手続きを確認し、速やかに加入申請を行う必要があります。協議会への加入は、在留資格申請の必須条件です。

参考:漁業特定技能協議会|水産庁

雇用契約の締結

1号から2号へ移行する際は、在留資格の変更に伴い、新たな雇用契約を締結(または変更契約を締結)する必要があります

報酬の基準「日本人従業員と同等額以上」という基準は1号と同様です。
2号としての待遇特定技能2号は「熟練した技能(指導・管理レベル)」を持つ人材です。
したがって、その業務内容(指導・管理・補佐)に見合った役職や手当を設定し、1号の作業員よりも高い水準の報酬とすることが妥当でしょう。
契約書の明記雇用契約書や雇用条件書には、2号として従事する業務(「指揮監督者の補佐」「作業員の指導」「工程管理」等)を明確に記載する必要があります。

在留資格変更許可申請

外国人材が1号から2号へ切り替わるには、本人の住所地を管轄する出入国在留管理庁(入管)に対し、「在留資格変更許可申請」を行う必要があります。

この申請は、1号の在留期間が満了する前に行う必要があります。準備期間を考慮し、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。

主な必要書類
  • 在留資格変更許可申請書
  • 2号の技能水準を満たすことの証明(「2号漁業技能測定試験」合格証明書)
  • 日本語能力水準を満たすことの証明(「JLPT N3」等合格証明書)
  • 実務経験を証明する資料(受入れ機関が作成する実務経験証明書、関連する業務記録等)
  • 特定技能所属機関(企業)に関する書類(登記事項証明書、決算書等)
  • 漁業特定技能協議会への加入を証明する書類
  • 新たな雇用契約書・雇用条件書の写し
  • その他、入管が求める資料

これらの書類を不備なく準備し、提出することが許可の鍵となります。

移行準備中の「特定活動」ビザの活用

特定技能1号の在留期間(最長5年)が満了するまでに、2号の試験準備や実務経験の確保が間に合わないケースも想定されます。

この場合、一定の要件下で、2号への移行準備(試験受験など)を行うための「特定活動(6ヶ月・就労可)」という在留資格への変更が認められる場合があります。1号の期限が迫っている場合は、早めに入管や専門家にご相談ください。

参考:在留資格「特定活動」 | 出入国在留管理庁

2号人材の支援

特定技能1号では、受入れ機関(または登録支援機関への委託)による10項目の義務的支援が必須でした。

しかし、特定技能2号の外国人材は、日本での生活や業務に習熟しているとみなされるため、これらの義務的支援は「必須ではない」とされています。

とはいえ、2号人材は「家族帯同」が可能になります。家族が来日するとなると、住居の確保、役所の手続き、子供の学校探し、配偶者の地域コミュニティへの参加など、新たな支援ニーズが発生します。

これらは義務ではありませんが、企業が積極的に協力・支援体制を整備することで、人材の定着率を格段に高め、安心して長く働いてもらう環境を整備することができるでしょう

漁業分野で特定技能2号人材を育成・確保するポイント

木製ブロックを階段状に積み上げる手。キャリアアップや成長、スキル向上のイメージ。

実際にフィリピン等から優秀な人材を採用し、2号人材へと育成していくためには、企業側の戦略的なアプローチが必要です。

2号移行というキャリアパスの提示

現在雇用している特定技能1号の外国人材、またはこれから採用する人材に対し、明確なキャリアパスとして「特定技能2号」への道筋を示すことが非常に重要です

採用時のアピール

フィリピン等での採用面接の際、「当社には、頑張り次第で1号から2号にステップアップできる制度と支援がある」と伝えることは、優秀な人材を確保する上で強力な武器となります。

社内での支援体制

「N3」の日本語能力は、独学だけで合格するのは容易ではありません。企業が日本語学習の機会(教材提供、オンライン学習の費用負担、地域の日本語教室情報の提供など)を積極的に支援する姿勢を見せることが大切です。

試験対策の支援

2号漁業技能測定試験についても、過去の出題傾向や学習ポイントに関する情報を提供し、受験を奨励する(受験料の補助など)ことが有効です。

実務経験をどう積ませるか

2号の要件で最も企業側の関与が必要なのが「実務経験」です。これは、人材が入社した時点から計画的に行う必要があります

意識的な業務の割り当て

1号の期間中から、単なる作業員としてだけでなく、早い段階から日本人リーダーの補佐を任せたり、後から入ってきた技能実習生や新人作業員への指導(OJT)を一部担当させたりするなど、「指導・管理」に係る経験を意識的に積ませる業務ローテーションを組みましょう。

経験の可視化と記録

それらの業務を行ったことを「業務日報」や「指導記録」として本人と上司が確認し、記録を残す習慣をつけます。これが、将来の在留資格変更申請の際に「2年以上の実務経験」を証明する強力な資料となります。

家族帯同を見据えた受入れ体制の整備

特定技能2号の大きな魅力は「家族帯同」です。これが実現できなければ、せっかく2号になっても家族のいる母国へ帰るという選択肢が現実味を帯びてしまいます。

住居のサポート

独身寮だけでなく、家族で住めるアパートや社宅の情報提供、または契約のサポート(保証人など)が行える体制を整備しておくことが望まれます。

地域生活のサポート

地域の学校(保育園、小中学校)、病院、スーパーマーケットなどの生活情報を提供し、家族が地域社会にスムーズに溶け込めるよう協力することも、長期定着の鍵となります。

これらの点を企業が積極的に行うことで、優秀な外国人材の長期定着を図れるでしょう。

漁業分野で特定技能フィリピン人を採用するメリット

青い海と緑豊かな山々が広がるフィリピンの海岸風景。港と灯台が見える自然豊かな沿岸地域の景色。

特定技能制度において、フィリピンは主要な人材輩出国の一つです。特に漁業分野においてフィリピン人材の採用を検討する企業が多いのには、彼らの国民性や文化的背景に裏打ちされた明確な理由があります。

世界No.1の船員輩出国としての実績と経験

フィリピンは「世界最大の船員供給国」です。ジェトロや日本船主協会のレポートによれば、世界の商船で働く船員の数において、フィリピン人が最多を占めています。日本の商船会社が運航する外国籍の船舶においても、乗組員の約7割がフィリピン人であるとされています。

これは、国として船員の育成に力を入れてきた歴史と実績があることを意味します。フィリピンは、IMO(国際海事機関)が定める船員の訓練や資格証明の国際基準(STCW条約)を遵守している国として「ホワイトリスト」にも掲載されており、その教育・訓練の質は国際的に認められています

漁業分野においても、この「船や海での業務」に対する国家的な経験値は大きな強みです。海という特殊な環境への理解が深く、船上での規律や安全基準の基礎教育を受けている可能性が高い人材が多いことは、受入れ企業にとって計り知れないメリットとなります。

参考:
日本の海運会社が世界で活躍する船員を育成(フィリピン) | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報|ジェトロ
日本商船隊とフィリピン人船員|日本海事センター 企画研究部 主任研究員 野村 摂雄

高い言語習得能力と学習意欲

フィリピンでは、公用語であるフィリピノ語(タガログ語)や英語のほか、多くの現地語が日常的に使われており、多言語環境で育つ人が少なくありません。

このような背景から、彼らは一般的に新しい言語に対する抵抗感が少なく、他言語の習得が早い傾向があると言われています。実際に、日本で働くフィリピン人の中には、非常に流暢な日本語を操る人も少なくありません。これは、彼らが持つ「言語を学ぶ素養」と、日本で成功したいという「高い学習意欲」の表れでしょう。

もちろん個人差はありますが、この習得意欲の高さは、漁業現場での複雑な作業指示や安全に関するルールの理解、スムーズな日本語でのコミュニケーションが期待できる大きな強みとなります。

ホスピタリティ精神と明るい国民性

フィリピン人は、非常にホスピタリティ精神が豊かで、明るく社交的な国民性で知られています。

漁業、特に漁船での操業は、閉鎖された空間で長期間チームで過ごす共同生活の側面が強いです。 このような環境において、彼らの明るさや他人を思いやる姿勢は、船内や作業現場の雰囲気を和ませ、日本人作業員や他の外国人材との円滑な人間関係の構築に大きく寄与します

厳しい労働環境下でのストレスを緩和する、いわば「ムードメーカー」としての役割も期待できるでしょう。

家族を支えるための強い労働意欲

フィリピン人は「家族のため」という意識が非常に強く、海外で働く主な動機が「本国の家族に仕送りをし、生活を支えること」であるケースが大多数です。 

この強い動機は、時に過酷で体力を要する漁業の仕事に対する高い忍耐力と、真面目な勤務態度に直結します。技能を習得し、より長く、より多く稼ぎたいというハングリー精神は、特定技能2号へのステップアップを目指す上でも強力な原動力となるでしょう。

島国育ちの順応性と協調性

日本と同じく島国であるフィリピンは、歴史的にも多様な文化を受け入れ、適応してきた背景があります。また、地域コミュニティでの助け合い(バヤニハン精神)が根付いているため、新しい環境や異なる文化への順応性が比較的高いとされています。

漁業特有の共同生活や、天候に左右される不規則な作業リズムにも柔軟に対応し、チームの一員として協調性を持って行動することが期待できます。

現場の声から学ぶ!漁業分野で特定技能フィリピン人材を活用するために

「case study」と書かれた札が付いた資料の束。特定技能「漁業」でのフィリピン人材採用事例を示すイメージ。

ここでは実際に漁業分野で特定技能フィリピン人を受入れている企業の事例から、彼らを採用するメリット、企業が行うべき取り組みなどについて考察します。

大盛丸海運株式会社の事例

大盛丸海運株式会社は、冷凍運搬船事業を主軸とし、世界各地の海から日本へ魚介類を運搬しています。同社の船には、日本人船員と共に、フィリピン人やインドネシア人の部員が乗船し、大きな戦力として活躍しています。

彼らが従事するのは、洋上で鮪船と接舷し、マイナス55度の艙内へ冷凍鮪を積み付けるという、非常に専門的で過酷な作業です。 同社の現場の声によれば、フィリピン人スタッフは友好的で若手の日本人船員ともすぐに打ち解け、良好な関係を築いているとのことです。

こうした異文化コミュニケーションの円滑さが、航海中の厳しい業務を支える一つの要因となっていることが伺えます。 また、同社では一航海(約4ヶ月)を終えると約1.5ヶ月のまとまった休暇が取得できるなど、船員特有の働き方に合わせた制度を整備しています。

事例から学ぶべき教訓

この事例は漁業・海運分野でフィリピン人材を活用する上で、企業が学ぶべき教訓が含まれています。

文化や国民性のポジティブな影響

フィリピン人材の持つ「友好的で明るい」側面が、日本人との協調や、閉鎖的になりがちな船内・現場の雰囲気を改善する上で有効に機能する可能性があります。

過酷な業務への適応力

明確な目的(家族のため等)と、それに見合う待遇・休暇制度があれば、フィリピン人材は過酷な漁業の現場においても貴重な戦力として定着・活躍し得ることが分かります。

言語能力の重要性

事例で「日本語が理解できるベテラン」が大きな戦力となっていると触れられています。日本語(または英語)でのコミュニケーション能力が高い人材は、作業効率と安全性の向上に直結します。

オンとオフのメリハリ

漁業特有の、時には長期にわたる厳しい労働に対し、適切な休暇制度や、陸上でのリフレッシュ(ゴルフコンペ等の親睦の場)の機会を設けることが、長期的な雇用維持に繋がります。

フィリピン人受入れに必須のDMW申請と送り出し機関

フィリピン国旗を手に持つ様子。特定技能「漁業」でフィリピン人材の採用や書類申請を象徴するイメージ。

フィリピン人材を採用するには、日本側の法律だけではなく、フィリピン政府側の組織(DMW/旧POEA)と、現地の送り出し機関についての理解が不可欠です。

DMWと送り出しルールの要点

フィリピンは国民の多くが海外で働いているという現状があり、労働者を保護するため、DMW(海外労働者省)という行政機関が海外への送出を厳格に管理・監督しています。そのDMWの窓口として各国に設置されているのが、MWO(移住労働者事務所)です。

MWOは企業が作成した雇用契約や求人票がフィリピンの労働基準に合致しているかを認証(Verification)します。MWOの認証を経ることで、フィリピン政府から正式に採用計画が承認されます。

フィリピンではエージェントを介さない企業による直接雇用は原則禁止されており、DMW認定の送り出し機関を通じた手続きが必要となります。

そのため日本の企業がフィリピンから人材を雇用する場合、まずはDMW認定の送り出し機関と人材募集・雇用に関する取り決めを締結し、その上でMWOへの申請手続きを行い、認証を得なければなりません

また送り出し機関に関してDMWは不当な手数料徴収を禁じる通達を出しており、紹介料や手数料の取り扱いには法的なルールが適用されます。とはいえ、実務上は運用に差が出ており、企業側が想定外の費用負担や説明不足に直面するケースが散見されます。企業側は送り出し機関との契約時に費用負担の明細を契約書で明確化してください。

海外雇用許可証の取得

海外雇用許可証(OEC :Overseas Employment Certificate)は、フィリピン人が就労目的で日本へ渡航するために必須の証明書であり、フィリピンを出国する際の空港で提出が求められます。

このOECの申請には、日本側で取得した在留資格認定証明書(COE)や、正式な雇用契約書、技能証明書等の書類が必要となり、DMW/MWOによる厳格な審査を経て発行されます。

ここで重要な点は、日本のビザが発行された後であっても、フィリピン側でOECが取得されていなければ、フィリピン人は出国できないということです。これは、日本側の手続きが完了した後に、渡航直前で採用予定が頓挫する最大のリスク要因となり得ます。企業担当者は、日本の入国管理手続きに注力する中で、送り出し機関やフィリピン人本人に対してOEC取得の進捗情報を常に確認し、管理名簿を作成しておく必要があります。

送り出し機関選定の重要性

フィリピン人採用における最大の実務リスクの一つは、送り出し機関の選択です。なぜなら、一部には不当な費用請求や書類偽造、質の低い日本語教育といった悪質な運営を行う機関が存在するからです。

そうした事案は、労働者本人に深刻な被害をもたらすだけでなく、受け入れ企業にも失踪・不法就労・労務トラブルといった重大な負担を引き起こします

したがって、送り出し機関の選定は「人が来るかどうか」だけで判断してはいけません。倫理性・透明性・法令順守を含めた総合的な適性評価が不可欠です。

採用ステップ

STEP
送り出し機関と契約

DMWに認定された現地の送り出し機関を通じて契約を締結します。

STEP
MWO による認証(Verification)

送り出し機関を通じて、求人票(Job Order)および雇用契約案をMWOに提出し、フィリピン側の基準に沿うか確認を受けます。必要があれば契約内容の修正や追加書類の提出を求められます。

STEP
候補者との雇用契約締結

MWOの認証で必要条件が満たされたことを確認したうえで、候補者と正式な雇用契約を最終確定(署名)します。実務上はこの確定をもって日本側の在留手続きを進めるのが安全です。

STEP
COE(在留資格認定証明書)の申請

日本側での在留資格申請に必要な書類を揃え、出入国在留管理庁に申請します。COE の有効期限に注意し、フィリピン側手続きを完了させた上で申請することが望ましいです。

STEP
OEC(海外就労認定証)の取得

OECはフィリピン出国時に提示が求められる証明書です。これを取得することで、合法的に出国・入国が可能となります。日本在住者でも、場合によっては OEC 取得が必要になることがあります。

日本在住フィリピン人を雇用する場合:1号から2号移行時の注意点

すでに日本国内に在留している特定技能1号のフィリピン人材を2号に移行して継続雇用する場合でも、MWOによる認証手続きが原則として必要となります

これは、たとえ日本国内で在留資格の変更(1号→2号)を行うケースでも、フィリピン政府の視点からは「海外就労扱い」となるためです。MWOを通じた認証手続きを取得を怠り、外国人が一時的にフィリピンへ帰国した場合、出国時にOECの提示を求められて提示できなければ、日本への再入国が不可能になるという深刻な事態が発生する可能性があります。

受入れ企業は、この重大なリスクを理解し、日本在住者であっても、DMW認定の人材紹介会社を経由した認証手続きを確実に行う必要があります。

参考:DMW

送り出しカフェの活用

送り出しカフェ公式サイトトップ画面

DMWへの申請、送り出し機関の選定などの手続きが必要なフィリピン人材の採用を成功させるには、専門のサポート機関を利用するのが最も効率的かつ効果的です。

送り出しカフェは、フィリピン人労働者の採用を検討している日本企業を対象に、フィリピン現地の送り出し機関の紹介・仲介を行っています。

フィリピン政府のライセンスを持つ正規の送り出し機関と提携しており、年間2,000人を海外に送り出す実績を有するパートナーなど、実績豊富な機関と連携しているのが大きな特徴です

送り出しカフェ活用のメリット一覧

メリット
信頼性のある送り出し機関の紹介

フィリピン政府公認のライセンスを持つ送り出し機関と提携しているため、違法・不透明な業者を避けられる。

人材の母集団が大きい

提携大学・職業訓練校から約7,000人規模の候補者がいるため、必要な職種に合った人材を探しやすい。

特定技能16分野に対応

介護・外食・建設など幅広い業種の求人に対応できる。

安心の日本語対応

日本人スタッフが窓口となるため、言語や文化の違いによる誤解・トラブルを減らせる。

採用から入国後までワンストップ支援

求人票作成、面接調整、ビザ・MWO申請、入国後の定着支援までトータルサポート。

手続きの負担軽減

フィリピン側で必要な複雑な申請書類や手続きを代行・支援してくれる。

日本語教育サポート

採用前から就労後まで継続的に日本語教育を行う体制があり、現場でのミスや離職リスクを軽減できる。

費用や採用リスクの低減

信頼性の低い送り出し機関を選んで失敗するリスクを減らし、スムーズな採用につながる。

送り出しカフェを活用することによって、DMWのルール確認、信頼できる送り出し機関の選定、明確な契約とスケジュール管理などを円滑に行うことができるでしょう。

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まとめ

夕日が海に沈む中、水平線上を航行する船のシルエット。

特定技能2号制度の拡大は、深刻な人手不足に悩む日本の漁業事業者にとって、まさに待望の朗報です。フィリピンをはじめとする優秀な外国人材に、単なる「労働力」としてではなく、将来の「現場リーダー・指導者」として長期的に活躍してもらう道筋が、法的に整備されたからです。

特定技能1号から2号へのステップアップは、外国人材本人にとっても、日本でのキャリアアップと生活の安定(長期在留、家族帯同)を実現するという、非常に大きな意味を持ちます。

フィリピンをはじめとする意欲の高い優秀な外国人材に、やりがいを持って長く活躍してもらう。そのために、企業側が特定技能2号への移行を積極的に支援し、明確なキャリアパスを整備することは、これからの漁業分野において不可欠な戦略となるでしょう。

一方で、特定技能2号の人材を受け入れるためには、企業は制度を正しく理解し、必要な試験や実務経験の要件をクリアできるよう、外国人を支援する体制を整える必要があります。

さらに特定技能1号のフィリピン人材の採用、また1号から2号への移行の際には、日本側の手続きに加えてフィリピン側のDMW・MWO申請が必要となります。

私たち「送り出しカフェ」は、フィリピン人材採用のために、信頼できる送り出し機関との連携体制を構築し、採用・在留資格手続き、日本語教育、生活支援までを一貫してサポートしています

フィリピン人材の採用を具体的に検討されている企業様は、まずはお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

三木 雅史(Masafumi Miki) 株式会社E-MAN会長
1973年兵庫県生まれ / 慶応義塾大学法学部法学科卒
・25歳で起業 / デジタルガレージ / 電通の孫請でシステム開発
・web通販事業を手掛ける
・2006年にオンライン英会話を日本で初めて事業化
・2019年外国人の日本語教育を簡単、安価にするため
 日本語eラーニングシステムを開発、1万人超の外国人が日々学習中

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