【農業分野】特定技能2号の熟練外国人を受け入れるための完全ガイド

特定技能2号 農業

日本の基幹産業である農業。その現場は今、深刻な人手不足という大きな問題に直面しています。作物の栽培管理から収穫、畜産動物の飼養管理まで、日々の作業は待ったなしです。この状況を打開する鍵として、外国人材への期待が急速に高まっています。

特に2019年4月に開始された「特定技能」制度は、多くの農業事業者にとって貴重な人材確保の道筋となりました。しかし、特定技能1号には「在留期間が通算5年まで」という上限があり、せっかく技能を習得し、現場に不可欠となった人材が帰国せざるを得ない「5年問題」が懸念されていました。

しかし、この問題に対する大きな転換点が訪れてました。2023年6月の閣議決定により、これまで一部の分野に限られていた「特定技能2号」の対象が、農業分野にも拡大されたのです。

特定技能2号は、1号と比べて格段に高い技能水準が求められる一方、在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も可能となります。これは、企業にとって「熟練した人材に、現場のリーダーとして永続的に活躍してもらう」道が開かれたことを意味します。

この記事は、特にフィリピンからの優秀な人材採用を検討されている企業担当者の皆様へ向けて、農業分野における特定技能2号の受入れに関する詳細、外国人本人が満たすべき要件、企業のメリット、そして複雑な手続きの流れについて、最新の情報に基づいて網羅的に解説します

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目次

農業分野における特定技能制度の全体像

温室でミニトマトを収穫する外国人。特定技能2号の農業分野で働く熟練人材のイメージ。

まずは、特定技能制度の基本的な構造と、農業分野における2号の位置づけを正確に確認しましょう。本制度を正しく理解することが、効果的な人材戦略の第一歩です。

特定技能1号と特定技能2号の根本的な違い

特定技能制度は、「1号」と「2号」という2種類の在留資格に区分されています。両者の違いは、外国人材のキャリアと企業の経営戦略に直結する重要な点です。

特定技能1号 

特定の産業分野において、相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です

技能水準一定の試験合格、または技能実習2号の良好な修了が必要。
在留期間通算で上限5年まで。更新は可能ですが、5年を超えての在留はできません。
家族帯同原則として認められません。

特定技能2号 

特定の産業分野において、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です

技能水準1号より高度な「2号技能測定試験」への合格が必要。
在留期間更新の上限がありません。3年、1年又は6ヵ月ごとの更新を続けることで、事実上の永続的な就労が可能となります。
家族帯同要件を満たせば、配偶者と子どもの帯同が可能になります。

つまり、1号が即戦力となる作業者向けの資格であるのに対し、2号は現場を管理・監督できる高度な専門人材向けの資格と言えるでしょう。

農業分野が特定技能2号の対象となった背景

農業分野が特定技能2号の対象として拡大された背景には、農業現場の切実なニーズがあります。

特定技能1号の人材が5年の在留期間満了を迎える時期(2024年以降)が迫る中、多くの事業者から「熟練した人材を手放したくない」「現場のリーダーとして育てたい」という強い要望が上がっていました

農業は、天候や生物を相手にする産業であり、マニュアル通りの作業だけでは立ち行きません。長年の実務経験によって培われる判断力や、複数の作業を管理する能力が不可欠です。

こうした現場の声を背景に、政府は2023年6月、農業や飲食料品製造業などを含む9分野について、特定技能2号の対象に追加する方針を決定しました。これにより、日本の農業経営の安定化と発展のため、熟練した外国人材が長期的に活躍できる環境が整備されたのです。

農業分野の対象業務:耕種農業・畜産農業

特定技能制度において、農業分野は大きく「耕種農業全般」と「畜産農業全般」の2つに分けられます

特定技能1号では、以下の業務に従事します。

耕種農業全般栽培管理(施肥、農薬散布、収穫等)、農産物の集出荷・選別 等。
畜産農業全般飼養管理(給餌、搾乳、清掃等)、畜産物の集出荷・選別 等。
関連業務また、これらに加え、日本人が通常従事する関連業務(農畜産物を用いた製造・加工、運搬、販売作業、冬場の除雪作業等)にも付随的に従事することが可能です。

特定技能2号では、上記の1号の業務内容に加えて、「当該業務に関する管理業務」が対象となります。 この「管理業務」とは、具体的には以下の内容を指します。

  • 複数の従業員(他の特定技能外国人や技能実習生、日本人のパートタイマー等)に対して、作業の指示・指導を行う。
  • 農場や作業工程の管理(スケジュール、品質、安全衛生の管理)を行う。

1号の人材が主に「作業者」であるのに対し、2号の人材は「現場リーダー」や「マネージャー」としての役割を担うことが期待されています

これは、受入れ企業にとって、経営の効率化や日本人管理者の負担軽減に直結する大きなメリットでしょう。

参考:農業分野 | 出入国在留管理庁

農業分野における特定技能2号の要件

農業ハウスでタブレットにデータを記録する作業者。スマート農業による特定技能2号の実務イメージ。

特定技能1号から2号へ移行するためには、外国人材本人が非常に高いハードルを越える必要があります。企業側は、自社の人材を育成する際、または2号人材を採用する際に、これらの要件を正確に把握しておくことが必要です。

要件は大きく分けて「技能水準(試験)」と「実務経験」の2点です

要件①:熟練した技能レベル「2号農業技能測定試験」

まず、1号の技能水準を上回る「熟練した技能」を証明するため、専門の試験に合格しなければなりません。

試験の名称2号農業技能測定試験
実施機関全国農業会議所(一般社団法人全国農業会議所)が、農林水産省の定める要領に基づき実施します。
試験区分従事する業務内容に合わせ、「耕種農業全般」と「畜産農業全般」の2つの区分があります。
試験内容試験は「学科試験」と「実技試験」で構成されます。学科・実技ともに、CBT方式(コンピューターを用いた試験)で行われる点が特徴です。
【学科試験】
安全衛生、資材・機械の取扱い、栽培・飼養管理の知識に加え、2号特有の「工程管理」「品質管理」「労働安全衛生の管理」に関する内容が含まれます。

【実技試験】
写真やイラストを見て、作物の生育状況、家畜の健康状態、施設・環境の異常、適切な作業方法などを判断する問題が出題されます。ここでも、複数の作業者への指示や工程管理に関する判断力が問われます。
合格基準学科試験と実技試験の両方で、全国農業会議所が定める基準点以上の得点を取得する必要があります。

日本語能力について: 

特定技能1号に求められる日本語能力(JLPT N4等)は、農業分野の2号要件には含まれません。これはすでに日本での生活と業務を通じて一定レベルの日本語能力を有していると考えられているからです。しかし、試験は全て日本語で行われるため、一定以上の日本語能力が求められることに変わりはありません

要件②:「実務経験」の証明

試験の合格に加えて、実際の現場での経験年数も証明する必要があります。この実務経験は、以下の2つのパターンのいずれかを満たすことが求められます。

パターンA: 2年以上の「管理」実務経験
  • 内容: 農業の現場において、複数の従業員を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者としての実務経験が2年以上あること。
  • これは、1号在留中やそれ以前(技能実習含む)に、現場リーダー的な立場で業務を行っていた経験を指します。
パターンB: 3年以上の「現場」実務経験
  • 内容: 農業(耕種または畜産)の現場における実務経験が3年以上あること。
  • こちらは、管理業務の経験は不問です。純粋な作業者としての経験が3年以上あれば要件を満たします。

多くの技能実習生は、実習2号(2年間)を修了した後、特定技能1号に移行するケースが一般的です。この場合、技能実習の経験も実務経験としてカウントされるため、パターンB(3年以上の現場経験)の要件は満たしやすいと言えるでしょう。

これらの実務経験は、日本国内での経験に限らず、外国(例えばフィリピン)での農業経験も、その内容が証明できる書類があれば算入が可能です。ただし個別審査になる点には注意なさってください。

1号から2号への移行プロセス

一般的なキャリアパスとしては、まず「特定技能1号」として日本国内の農場で従事します。その間に実務経験を積みながら、企業の支援を受け、2号農業技能測定試験の合格を目指します。

例えば、技能実習2号(2年)を修了し、特定技能1号に移行した人材は、1号として1年従事した時点で合計3年以上の実務経験(パターンB)を満たします。そのタイミングで2号試験に合格すれば、在留資格の変更申請が可能になります。

企業側は、将来の現場リーダーとして期待する人材に対し、早い段階からこのキャリアパスを示し、試験勉強のサポートや、可能であれば小規模なグループの指導役(パターンAの経験)を任せるなど、計画的な育成を行うことが重要です

参考:在留資格「特定技能」について (農業分野)|農林水産省

農業分野で特定技能2号を受入れる企業のメリットと責務

土から芽を出した若い苗に水を注ぐ手。農業分野の成長や特定技能2号人材の育成を象徴するイメージ。

特定技能2号の人材は、企業にとって「金の卵」とも言える存在です。しかし、その受入れには大きなメリットと同時に、企業側が果たすべき責務が伴います。

受入れ企業側が得られる最大のメリット

企業が2号人材を受け入れるメリットは、単なる労働力確保にとどまりません。

メリット1:優秀な人材の永続的な雇用

これが最大のメリットでしょう。在留期間の更新に上限がなくなるため、技能実習や特定技能1号の「5年」という期限に縛られず、熟練した人材に長期的に働いてもらうことが可能になります。これは、農業技術の継承や、安定した経営基盤の構築に直結します。

メリット2:現場の管理体制の強化

特定技能2号の人材は、制度上「管理業務」に従事することが認められています。経営者や日本人幹部社員が担っていた現場の工程管理や、他の外国人材(1号、技能実習生)への指導・監督業務の一部を任せることが可能になります。これにより、経営者はより経営戦略的な業務に集中できるようになるでしょう。

メリット3:人材の定着率向上 

特定技能2号では、要件を満たせば家族(配偶者・子)を日本に呼び寄せることが可能になります。外国人材にとって、母国に家族を残して単身で働き続けることは、精神的にも大きな負担です。日本で家族と生活基盤を築けることは、仕事へのモチベーションを大いに高め、人材の長期定着を促します。特に家族との結びつきを大切にするフィリピン人材にとって、これは非常に大きな魅力となります。

受入れ企業が遵守すべき要件

大きなメリットを享受する一方、受入れ企業(特定技能所属機関)には、1号の受入れ時と同様、あるいはそれ以上に適正な運用が求められます。

適切な雇用契約

日本人と同等額以上の報酬を支払うこと、労働時間、休日等の労働条件が、日本の関連法令(労働基準法等)を遵守していることが絶対条件です。

各種届出の義務

外国人の受入れ状況や活動内容について、定期的に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。

支援体制の確保

特定技能1号の外国人に対しては、生活オリエンテーション、日本語学習支援、定期的な面談等の「義務的支援」が必要でありますが、特定技能2号の外国人に対しては、企業の支援義務はありません。しかしこれは、「支援が一切不要」という意味ではありません。

特に、家族帯同が許可された場合、配偶者の就労に関する情報提供、子供の学校探し、住居の契約、各種行政手続きなど、1号の時とは異なる生活上のサポートが必要になる場面が多々発生するでしょう。彼らが安定して業務に従事できるためのサポートは引き続き重要です。

「農業特定技能協議会」への加入

農業分野で特定技能外国人を(1号・2号問わず)受け入れる全ての事業者は、「農業特定技能協議会」に加入することが法律で義務付けられています

目的協議会は、農林水産省、出入国在留管理庁、農業関連団体、受入れ機関等で構成され、制度の適正な運用、地域ごとの人手不足の状況把握、受入れ機関への情報提供、不正行為の防止等を目的としています。
加入のタイミング協議会への加入は、最初の特定技能外国人の在留資格申請を行う前に完了している必要があります。
申請時に、協議会の「加入通知書」の写しを提出しなくてはなりません。
手続き加入は、農林水産省のサイト等からオンラインで申込みを行います。
入会費や年会費等の費用は一切かかりません。
責務協議会の構成員となった受入れ機関は、協議会が行う調査や指導に対し、必要な協力をする責務があります。

この協議会への加入手続きを怠ると、特定技能外国人の受入れ自体が認められませんので、十分注意してください。

参考:農業特定技能協議会について|農林水産省

特定技能1号から2号への移行手続きの流れ

机の上に積まれた申請書類の束。特定技能2号の在留資格変更や農業分野の手続き書類をイメージ。

では、自社で雇用している特定技能1号の人材が、晴れて2号の要件を満たした場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。ここでは、日本国内で在留資格を変更する際(在留資格変更許可申請)の一般的な流れを解説します。

申請のタイミングと準備

申請は、対象となる外国人材が「2号農業技能測定試験」に合格し、かつ「実務経験」の要件を満たしたことを確認した後、速やかに行うことができます

もちろん、現在保有する「特定技能1号」の在留期間が満了する前に申請を完了させる必要があります。審査期間は案件や時期によるが、通常は数週間〜1〜3か月程度を見込んでください。繁忙期はさらに延びることがあるため、余裕を持ったスケジュール作成が肝心です。

企業特定技能所属機関が準備する主要書類

申請は本人、または法定代理人や事前承認を受けた申請取次者も行えます。企業側が準備・作成すべき書類の代表的なものを、以下に記します。

スクロールできます
在留資格変更許可申請書法務省所定の様式に、申請人(外国人)と受入れ機関の情報を記載します。
特定技能雇用契約書の写し2号としての業務内容(管理業務を含む点)、報酬額、労働時間等を明記した新しい雇用契約書です。
雇用条件書の写し雇用契約の内容を、外国人が理解できる言語(または日本語)で詳細に記載した書類です。
受入れ機関に関する証明書類登記事項証明書(法人の場合)
直近年度の決算書類(貸借対照表・損益計算書)の写し
役員の住民票の写し
納税・社会保険に関する証明書類適正に事業を行っている証明として、以下の書類の提出が求められます。
法人税等の納税証明書(税務署発行)
法人住民税の納税証明書(市区町村発行)
源泉所得税及び復興特別所得税の納付済証の写し
社会保険料(健康保険・厚生年金)の納入状況が確認できる書類
農業特定技能協議会の加入証明書(加入通知書)の写し協議会への加入を証明する書類です。

外国人本人が準備・確認する主要書類

外国人本人も、自身の要件を証明するための書類を準備する必要があります。代表的なものは、以下の通りです。

証明写真申請書に貼付します。
在留カード・パスポート申請時に原本を提示します。
納税証明書本人の住民税の課税証明書および納税証明書。
技能水準の証明書「2号農業技能測定試験」の合格証明書の写し。
実務経験の証明書2年以上の管理経験、または3年以上の現場経験を証明する書類。これは、受入れ機関や過去の所属機関が作成・証明するものです。
健康診断個人票申請前3ヶ月以内に受診した、規定の項目を満たす健康診断の結果票。

申請から在留カード受領まで

STEP
書類作成と収集

上記の書類を、受入れ機関と外国人本人が協力して準備します。

STEP
申請

外国人本人の住居地を管轄する「出入国在留管理局」の窓口に、全ての書類を提出します。

STEP
審査

申請が受理されると、審査が開始されます。審査期間は申請内容や時期によりますが、数週間から2〜3ヶ月程度かかるのが一般的です。

STEP
結果通知

審査が完了すると、入管から通知書(ハガキ)が届きます。

STEP
在留カード交付

許可された場合は、本人が入管に出向き、手数料(収入印紙)を納付して、在留資格が「特定技能2号」と記載された新しい在留カードを受け取ります。

注意点:転職を伴う場合の受入れ

他社で特定技能1号または2号として働いていた人材を、自社が2号人材として中途採用するケースも考えられます。この場合も、新たな雇用契約に基づき、在留資格の(変更または認定)申請が必ず必要です。 

特に注意すべきは、転職の場合は、入管の許可が下りて新しい在留カードが交付されるまで、その人材を就業させることはできないという点です。採用スケジュールには十分な余裕を見て行ってください。

参考:在留資格変更許可申請 | 出入国在留管理庁

農業分野の特定技能人材を確保・育成する戦略

畑の土に種をまく手。農業分野で働く特定技能2号外国人の技能や新たな挑戦の始まりを象徴。

特定技能2号の制度が整った今、企業に求められるのは、この制度をいかに自社の経営戦略に組み込むか、という視点です。単に人手を待つのではなく、積極的に人材を確保し、育成する戦略が不可欠となります。

1号人材の採用と2号への育成計画

これからの農業分野の外国人材採用は、5年後の帰国を前提とするのではなく、「将来の現場リーダー候補」として長期的に育成する視点を持つべきでしょう

採用時には単なる体力や農業経験だけでなく、日本語の学習意欲、コミュニケーション能力、そしてリーダーシップの素養があるか、といった点も評価軸に加えることが望まれます。フィリピンの人材は、高いホスピタリティや英語能力、日本文化への適応力を持つ人が多く、長期的なパートナーとして育成するにふさわしいポテンシャルを秘めています。

入社後、特定技能1号として業務に従事してもらう早い段階から、「我が社では、2号試験に合格すれば、現場リーダーとして給与もアップし、長く働ける。家族も呼べるようになる」という明確なキャリアパスを示すことが、本人のモチベーション維持に繋がります。

2号試験合格に向けた企業の支援体制

特定技能2号への移行は、本人の努力だけでは困難です。企業側の積極的な支援が合格の鍵を握ります。

実務経験の付与

3年以上の現場経験は多くの場合クリアできますが、可能であれば「2年以上の管理経験」(パターンA)を積ませることを意識すると良いでしょう。

例えば、3〜4人のチームの小リーダーとして、作業の段取りや安全衛生の確認を任せるなど、計画的に指導・管理の経験を与えます。

試験対策の支援

学科試験の学習支援が重要です。全国農業会議所のサイトでは、学習用テキスト(日本語・外国語併記)に関する情報が提供されています。こうした教材の提供や、業務時間外での勉強会の実施、日本語の読解サポートなどが有効です。

2024年以前の1号試験の過去問題なども参考にしつつ、特に2号で問われる「管理」に関する知識を重点的に学ばせる必要があります。

環境整備

受験手続きのサポート(申込み方法の案内など)や、受験費用の補助、試験当日の休暇取得など、本人が受験に集中できる環境を整えることも企業の役割です。

登録支援機関や送り出し機関との連携

特定技能制度の運用は、非常に専門的で複雑な手続きを伴います。 特定技能1号の受入れに際しては、日々の生活支援や各種届出を代行する「登録支援機関」の利用が一般的です。これらの機関は、多くの場合、2号への移行手続きに関するノウハウも蓄積しています。

自社だけですべてを抱え込まず、こうした支援機関や送り出し機関、あるいは行政書士のような専門家と適切に連携し、パートナーとして活用することが、円滑な受入れと育成の近道となります

日本の農業という産業の未来を支えるため、事業者と外国人材、そして支援者が一体となって、この新しい制度を活用していくことが今、求められています。

参考:登録支援機関(Registered Support Organization) | 出入国在留管理庁

農業分野で特定技能フィリピン人を採用するメリット

夕焼け空をバックに笑顔のフィリピン人家族

特定技能制度の活用を考える際、どの国の人材を採用するかは重要な経営判断です。特にフィリピン人材は、その国民性や文化的背景から、日本の農業現場において多くのメリットをもたらす可能性を秘めています。

ホスピタリティ精神と明るい国民性

フィリピンの人々は、一般的に非常にホスピタリティ精神が豊かであると言われています。これは、他人との協調性を重んじる文化から来ています。

農業現場では、多くの日本人従業員や他の外国人材とチームを組んで作業を行います。彼らの明るく社交的な性格は、職場のコミュニケーションを円滑にし、現場全体の雰囲気をポジティブに保つ上で大きな力となるでしょう。

また、困難な状況でも笑顔を絶やさない前向きな姿勢は、天候に左右されやすい農業の現場において、周囲の士気を高める効果も期待できます。

高い言語習得能力と学習意欲

フィリピンでは、公用語であるフィリピノ語(タガログ語)や英語のほか、多くの現地語が日常的に使われており、多言語環境で育つ人が少なくありません。

このような背景から、彼らは一般的に新しい言語に対する抵抗感が少なく、他言語の習得が早い傾向があると言われています。実際に、日本で活躍するフィリピン人の中には、非常に流暢な日本語を操る人も少なくありません。これは、彼らが持つ「言語を学ぶ素養」と、日本で成功したいという「高い学習意欲」の表れでしょう。

もちろん個人差はありますが、この習得意欲の高さは、農業現場での複雑な作業指示や安全衛生に関するルールの理解、さらには将来の特定技能2号としての管理業務を担う上で、スムーズな日本語でのコミュニケーションが期待できる大きな強みとなります。

家族を大切にする文化と就労への高い意欲

フィリピン文化において、家族との絆は非常に重要視されます。彼らの多くは、母国に残る家族の生活を支えるために日本で働くことを決意しています。この「家族のため」という強い動機は、仕事に対する真摯な姿勢と責任感につながります。

安定した収入を得るために、真面目に長期間働きたいという意欲が高く、特定技能1号の5年間、さらには特定技能2号としての長期雇用を目指す上で、非常に頼もしい存在となります。企業側が彼らの生活基盤を支えることで、強い信頼関係を築くことが可能です。

日本文化への親和性と高い適応力

フィリピンでは、日本のアニメや文化が広く浸透しており、日本に対してポジティブなイメージを持っている人が多いとされています。

日本での生活や、農業現場特有のルール(例えば整理整頓や時間厳守など)に対しても、比較的スムーズに適応できる傾向があります。

異文化への適応力は、長期的に日本で活躍してもらう上で重要な要素です。こうした文化的な親和性は、受入れ企業側にとっても、生活支援や職場環境の整備を行う上での負担軽減につながるでしょう。

現場の声から学ぶ!農業分野で特定技能フィリピン人材を活用するために

畑でサツマイモを収穫する作業者。農業分野の特定技能2号外国人が担う収穫作業のイメージ。

農業分野でも活躍が期待されるフィリピン人材。彼らを活かすために、企業はどのような取り組みをすべきでしょうか?

実際にフィリピン人材を雇用している企業の事例から、学びを得ていきましょう。

株式会社くしまアオイファームの事例

宮崎県串間市で、さつまいもの生産、加工、販売、そして輸出までを一貫して手掛ける株式会社くしまアオイファームは、外国人材活用の先進企業として知られています。

同社は事業拡大、特に輸出量の増加に伴う労働力確保のため、2018年から技能実習生、2019年から特定技能1号の受入れを開始しました。各国から人材を採用していますが、2024年4月時点で、特定技能1号のうち11名がフィリピン人材で占められています。

現場からは、フィリピン人材について「非常に明るく前向きで、職場の雰囲気を良くしてくれる」「日本語の学習意欲が高い」といった声が上がっており、彼らの特性が事業運営に良い影響を与えていることが分かります。

同社における活用方法のポイントは、圃場での収穫作業と、工場内での選別・加工・梱包作業の両方に従事させている点です。農業は天候によって作業が左右されますが、天候不順で圃場作業ができない日は工場内作業に従事してもらうなど、繁閑の差に対応し、安定した雇用を生み出しています。

くしまアオイファームでは、フィリピン人をはじめとする外国人材を活躍させるために、以下のような取り組みを行っています。

  1. 明確なキャリアパスの提示
    • 特定技能2号に移行すれば給与プラスのメリットがあることを伝えて、移行を明確にサポート・奨励しています。さらに優秀な人材には在留資格「技人国」への移行を提案し、将来の幹部候補として育成する方針を明確に示しています。
  2. リーダーとしての育成
    • 同社では、業務のセクションごとにリーダー、また寮生活においてもリーダーを決めています。この役割付与は、特定技能2号に求められる「複数の従業員を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者としての実務経験」の素地を1号の段階から育成する取り組みとして機能していると見られます。
  3. 積極的な日本語教育支援
    • 日本語能力試験(JLPT)のN3やN2を取得した場合には、報奨金を支給しています。
  4. 充実した住環境の整備と配慮
    • 外国人材の生活基盤を安定させるため、同社は一戸建てをはじめ複数の物件を賃貸契約し、特定技能外国人には個室を準備しています。いずれもWi-Fi設備を完備しています。分別が厳しい地域であるため、ゴミは会社に持ってきてもらい、会社で処分を行うといった細やかな生活支援も行っています。

教訓

このくしまアオイファームの事例から、フィリピン人材を含む特定技能外国人を農業分野で活用しようとする企業が学べる教訓は、以下のような点ではないでしょうか。

  • 単なる労働力としてではなく、「将来の現場リーダー」や「幹部候補」として捉え、明確なキャリアパスを示すことが、人材の定着と意欲向上に不可欠です。
  • 特定技能2号の「管理業務」は、座学だけでは身につきません。1号の段階から「サブリーダー」のような役割を与え、少人数のチームでも指導や工程管理の経験を計画的に積ませることが、将来の熟練人材育成につながります。
  • 日本語能力は、現場管理の基盤です。試験費用の補助や報奨金制度など、学習意欲を「具体的な形」で支援する企業の姿勢が、人材のスキルアップを加速させます。
  • 特定技能人材が安心して長く働ける環境整備こそが、企業経営の安定化に向けた一番の近道です。

参考:農業分野における特定技能外国人受け入れの優良事例調査に見る先進的取り組み|農畜産業振興機構

フィリピン人受入れに必須のDMW申請と送り出し機関

農地でフィリピン国旗を手に持つ様子。日本の農業分野で働くフィリピン人特定技能2号人材の象徴。

フィリピン人材を採用するには、日本側の法律だけではなく、フィリピン政府側の組織(DMW/旧POEA)と、現地の送り出し機関についての理解が不可欠です。

DMWと送り出しルールの要点

フィリピンは国民の多くが海外で働いているという現状があり、労働者を保護するため、DMW(海外労働者省)という行政機関が海外への送出を厳格に管理・監督しています。そのDMWの窓口として各国に設置されているのが、MWO(移住労働者事務所)です。

MWOは企業が作成した雇用契約や求人票がフィリピンの労働基準に合致しているかを認証(Verification)します。MWOの認証を経ることで、フィリピン政府から正式に採用計画が承認されます。

フィリピンではエージェントを介さない企業による直接雇用は原則禁止されており、DMW認定の送り出し機関を通じた手続きが必要となります。

そのため日本の企業がフィリピンから人材を雇用する場合、まずはDMW認定の送り出し機関と人材募集・雇用に関する取り決めを締結し、その上でMWOへの申請手続きを行い、認証を得なければなりません

また送り出し機関に関してDMWは不当な手数料徴収を禁じる通達を出しており、紹介料や手数料の取り扱いには法的なルールが適用されます。とはいえ、実務上は運用に差が出ており、企業側が想定外の費用負担や説明不足に直面するケースが散見されます。企業側は送り出し機関との契約時に費用負担の明細を契約書で明確化してください。

海外雇用許可証の取得

海外雇用許可証(OEC :Overseas Employment Certificate)は、フィリピン人が就労目的で日本へ渡航するために必須の証明書であり、フィリピンを出国する際の空港で提出が求められます。

このOECの申請には、日本側で取得した在留資格認定証明書(COE)や、正式な雇用契約書、技能証明書等の書類が必要となり、DMW/MWOによる厳格な審査を経て発行されます。

ここで重要な点は、日本のビザが発行された後であっても、フィリピン側でOECが取得されていなければ、フィリピン人は出国できないということです。これは、日本側の手続きが完了した後に、渡航直前で採用予定が頓挫する最大のリスク要因となり得ます。企業担当者は、日本の入国管理手続きに注力する中で、送り出し機関やフィリピン人本人に対してOEC取得の進捗情報を常に確認し、管理名簿を作成しておく必要があります。

送り出し機関選定の重要性

フィリピン人採用における最大の実務リスクの一つは、送り出し機関の選択です。なぜなら、一部には不当な費用請求や書類偽造、質の低い日本語教育といった悪質な運営を行う機関が存在するからです

そうした事案は、労働者本人に深刻な被害をもたらすだけでなく、受け入れ企業にも失踪・不法就労・労務トラブルといった重大な負担を引き起こします。

したがって、送り出し機関の選定は「人が来るかどうか」だけで判断してはいけません。倫理性・透明性・法令順守を含めた総合的な適性評価が不可欠です。

採用ステップ

STEP
送り出し機関と契約

DMWに認定された現地の送り出し機関を通じて契約を締結します。

STEP
MWO による認証(Verification)

送り出し機関を通じて、求人票(Job Order)および雇用契約案をMWOに提出し、フィリピン側の基準に沿うか確認を受けます。必要があれば契約内容の修正や追加書類の提出を求められます。

STEP
候補者との雇用契約締結

MWOの認証で必要条件が満たされたことを確認したうえで、候補者と正式な雇用契約を最終確定(署名)します。実務上はこの確定をもって日本側の在留手続きを進めるのが安全です。

STEP
COE(在留資格認定証明書)の申請

日本側での在留資格申請に必要な書類を揃え、出入国在留管理庁に申請します。COE の有効期限に注意し、フィリピン側手続きを完了させた上で申請することが望ましいです。

STEP
OEC(海外就労認定証)の取得

OECはフィリピン出国時に提示が求められる証明書です。これを取得することで、合法的に出国・入国が可能となります。日本在住者でも、場合によっては OEC 取得が必要になることがあります。

日本在住フィリピン人を雇用する場合:1号から2号移行時の注意点

すでに日本国内に在留している特定技能1号のフィリピン人材を2号に移行して継続雇用する場合でも、MWOによる認証手続きが原則として必要となります

これは、たとえ日本国内で在留資格の変更(1号→2号)を行うケースでも、フィリピン政府の視点からは「海外就労扱い」となるためです。MWOを通じた認証手続きを取得を怠り、外国人が一時的にフィリピンへ帰国した場合、出国時にOECの提示を求められて提示できなければ、日本への再入国が不可能になるという深刻な事態が発生する可能性があります。

受入れ企業は、この重大なリスクを理解し、日本在住者であっても、DMW認定の人材紹介会社を経由した認証手続きを確実に行う必要があります。

参考:DMW

送り出しカフェの活用

送り出しカフェ公式サイトトップ画面

DMWへの申請、送り出し機関の選定などの手続きが必要なフィリピン人材の採用を成功させるには、専門のサポート機関を利用するのが最も効率的かつ効果的です。

送り出しカフェは、フィリピン人労働者の採用を検討している日本企業を対象に、フィリピン現地の送り出し機関の紹介・仲介を行っています。

フィリピン政府のライセンスを持つ正規の送り出し機関と提携しており、年間2,000人を海外に送り出す実績を有するパートナーなど、実績豊富な機関と連携しているのが大きな特徴です

送り出しカフェ活用のメリット一覧

メリット
信頼性のある送り出し機関の紹介

フィリピン政府公認のライセンスを持つ送り出し機関と提携しているため、違法・不透明な業者を避けられる。

人材の母集団が大きい

提携大学・職業訓練校から約7,000人規模の候補者がいるため、必要な職種に合った人材を探しやすい。

特定技能16分野に対応

介護・外食・建設など幅広い業種の求人に対応できる。

安心の日本語対応

日本人スタッフが窓口となるため、言語や文化の違いによる誤解・トラブルを減らせる。

採用から入国後までワンストップ支援

求人票作成、面接調整、ビザ・MWO申請、入国後の定着支援までトータルサポート。

手続きの負担軽減

フィリピン側で必要な複雑な申請書類や手続きを代行・支援してくれる。

日本語教育サポート

採用前から就労後まで継続的に日本語教育を行う体制があり、現場でのミスや離職リスクを軽減できる。

費用や採用リスクの低減

信頼性の低い送り出し機関を選んで失敗するリスクを減らし、スムーズな採用につながる。

送り出しカフェを活用することによって、DMWのルール確認、信頼できる送り出し機関の選定、明確な契約とスケジュール管理などを円滑に行うことができるでしょう。

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まとめ

ハウス内でタブレットを持つ外国人農業技能者。特定技能2号の熟練人材としてデータ管理を行う様子。

農業分野における特定技能2号の解禁は、単なる在留期間の延長ではなく、日本の農業経営のあり方を大きく変える可能性を秘めた制度改正です。 深刻な人手不足の解消はもちろん、熟練した技能と現場管理能力を持つ外国人材を「経営パートナー」として迎え入れることで、農業経営の高度化、効率化、そして安定化が期待できます。

特定技能1号から2号へのステップアップは、外国人材本人にとっても、日本でのキャリアアップと生活の安定(長期在留、家族帯同)を実現するという、非常に大きな意味を持ちます。

フィリピンをはじめとする意欲の高い優秀な外国人材に、やりがいを持って長く活躍してもらう。そのために、企業側が特定技能2号への移行を積極的に支援し、明確なキャリアパスを整備することは、これからの農業経営において不可欠な戦略となるでしょう。

一方で、特定技能2号の人材を受け入れるためには、企業は制度を正しく理解し、必要な試験や実務経験の要件をクリアできるよう、外国人を支援する体制を整える必要があります。

さらに特定技能1号のフィリピン人材の採用、また1号から2号への移行の際には、日本側の手続きに加えてフィリピン側のDMW・MWO申請が必要となります。

私たち「送り出しカフェ」は、フィリピン人材採用のために、信頼できる送り出し機関との連携体制を構築し、採用・在留資格手続き、日本語教育、生活支援までを一貫してサポートしています

フィリピン人材の採用を具体的に検討されている企業様は、まずはお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

三木 雅史(Masafumi Miki) 株式会社E-MAN会長
1973年兵庫県生まれ / 慶応義塾大学法学部法学科卒
・25歳で起業 / デジタルガレージ / 電通の孫請でシステム開発
・web通販事業を手掛ける
・2006年にオンライン英会話を日本で初めて事業化
・2019年外国人の日本語教育を簡単、安価にするため
 日本語eラーニングシステムを開発、1万人超の外国人が日々学習中

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