特定技能と技能実習の違いを徹底解説|フィリピン人採用への企業戦略

特定技能 技能実習 違い

日本の産業界が直面する深刻な人手不足は、もはや待ったなしの経営課題であり、特に介護、建設、製造業などの特定産業分野では、外国人材の確保と活用が企業の存続を左右する重要な戦略となっています。

そうした分野での外国人材採用の主な柱となるのが、「特定技能(SSW)」と「技能実習(TITP)」でしょう。しかしこの2つの在留資格は制度や要件にも大きな違いがあり、企業の採用戦略にも大きな影響を及ぼします。

そのため企業が自社の目的に合った人材を確保し、外国人材の定着を促進するためには、それぞれの制度を深く理解し、戦略的な活用方法を確立することが不可欠です。

当記事は、日本の主要な外国人労働者の供給国であるフィリピンからの採用を検討する企業担当者に向けて、特定技能制度と技能実習制度の違いを徹底比較した上で、採用を成功させるための方法を解説します

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目次

技能実習制度と技能実習制度の概要

ヘルメットや作業服を着た多国籍の技能労働者たちが並び、後方には歯車や工具が描かれ、建設・製造・整備など幅広い業種での人材活用を象徴している。

まず始めに、2つの制度の基本的な点を抑えておきましょう。

特定技能制度

特定技能制度は、人材確保が困難な特定産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れる制度です。2019年4月に創設されたこの制度は、日本の労働力不足解消を主目的としています。

特定技能には1号と2号という異なる在留資格があり、それぞれ対象分野、在留期間などにも違いがあります。

特定技能1号
対象分野
(16分野)
介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業
在留期間最大5年
特定技能2号
対象分野
(11分野)
ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業
在留期間継続的に更新可能(制限なし)

制度創設以来、特定技能外国人の数は急激に増加しており、2024年6月末時点で251,594名が日本に滞在しています。このうちフィリピン人は約21,364人を占め、全体の約10.3%に相当します。

参考:特定技能制度 | 出入国在留管理庁

技能実習制度

技能実習制度は、開発途上地域の経済発展を担う人材育成を通じて国際協力を推進することを目的とした制度です。1993年に創設されて以来、長年にわたり外国人材の受け入れを行ってきました。

技能実習には1号・2号・3号の段階があり、最大5年間の在留が可能です。

  • 1号:基礎的な実習(最長1年)
  • 2号:技能の習熟(最長2年)
  • 3号:熟練技能の習得(最長2年)

※合計で最長5年の在留が可能。

実習職種は農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属など幅広い分野をカバーしており、現在85職種156作業が対象となっています。

参考:外国人技能実習制度について |厚生労働省

特定技能制度と技能実習制度の根本的な違い

ートパソコンの前で悩む女性が両手を広げ、背景に大きなはてなマークが描かれたイメージ。制度の比較、情報収集に迷う様子を表現している。

特定技能制度と技能実習制度は、一見似ている部分もありますが、創設目的や運用ルールが根本的に異なります。

企業がどちらを採用ルートとして選ぶかは、「短期的に即戦力がほしいか」「長期的に技能を移転・育成したいか」といった目的によって変わります。

ここでは、企業担当者が判断しやすいよう、両制度の本質的な違いを整理します。

制度創設の目的と法的性格の違い

技能実習制度は、本来「技能移転を通じた国際貢献・国際協力」を目的に設けられた制度です。実習生は実習計画に基づいて技能を習得することが求められ、教育的性格が強い運用が前提になります。

とはいえ、実務上は企業の人手確保にも利用されてきた歴史があり、その点は運用上の難しさを生んでいます。そのため、2023年の有識者会議において技能実習制度を廃止する方針が示され、新たな「育成就労制度」への移行が予定されています。

一方、特定技能制度は、日本の特定産業分野における深刻な人手不足に対応するために創設された「就労資格」です。

受け入れ当初から労働者としての即戦力を期待され、賃金や労働条件は日本人と同等以上が求められます。したがって、現場での業務範囲や転職の可否など、運用上の柔軟性が技能実習とは異なります。

参考:育成就労制度の概要|厚生労働省

在留期間と在留資格の更新要件

在留期間についても明確な差があります。技能実習は1号・2号・3号の段階を経て最長で5年まで在留可能です。制度の基本設計上、最終的には母国へ戻ることを前提としています。

これに対し、特定技能は1号が通算で最長5年という点では一致しますが、2号(熟練技能者向け)へ移行できれば在留の更新が可能となり、実務上は長期的な雇用継続が見込めます

そのため企業にとっては、特定技能2号の存在が長期人材確保の有力な手段となりえます。

技能水準・日本語要件と移行ルート

特定技能は即戦力を前提にしており、業務遂行に必要な技能試験と日本語能力(N4相当など)が要件として設定されています。したがって入社時点で一定の業務遂行力が期待できます。

他方、技能実習には「育成過程」としての性格があるため、来日時には特定の技能試験は不要となっています。実習2号を良好に修了した者には、特定技能1号への移行が認められるケースがあります。

ただし、移行には「実習で従事した職種・作業」と特定技能1号の業務内容との関連性が必要です。つまり、移行は自動的に認められるわけではなく、分野ごとの運用ルールと必要書類(修了証など)に沿って手続きが行われます。

運用の柔軟性と企業側が注意すべき点

教育重視の技能実習は、実習計画に沿った運用が求められるため、計画外の業務割り当てが難しいという制約があります。これに対し、特定技能は就労資格であるため、業務の範囲内での柔軟性は比較的高いといえるでしょう。

逆に言うと特定技能は「転職が可能」ということでもあり、企業は転職リスクを踏まえた待遇設計や支援体制の整備が不可欠です

また、技能実習には監理団体の関与や人数枠の制約といった構造的な制限がある点も留意すべきです。規模の小さい事業所では受け入れ上限があったり、監理費用や対応負担が発生したりします。これらは、採用戦略の成否に直結する要素です。

主要項目の比較

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比較項目特定技能制度技能実習制度
制度の目的労働力確保(即戦力)技能移転・育成(国際協力)
在留期間1号:通算最長5年
2号:更新可能(長期在留可)
1号→2号→3号の合計で最長5年
家族帯同1号:原則不可
2号:要件ありで可
原則不可
転職の可否同一分野内で転職可能(手続き・要件あり)原則不可(例外あり)
人数枠原則制限なし(ただし分野ごとの例外あり)常勤職員数に応じた上限あり
求められる技能即戦力レベル(相当程度の技能)習得を目的とする段階的な技能

※上表は制度の性格を整理するための簡易比較です。分野別の細目や人数枠、職種・作業の具体数などは省令や省庁公表資料で随時更新されます。最終的な運用判断や採用計画の策定時は、必ず最新の官公庁資料を確認してください。

どちらの制度を利用すべきか

企業の視点で外国人材の受け入れ制度を選ぶ場合、ポイントは「即戦力か育成か」と「制度運用体制」の2軸です

即戦力重視の場合

転職や待遇の競争力に対応できる体制が整っているなら、特定技能制度が有力です。在留資格の更新や2号資格の活用によって、長期的な人材確保も可能です。

育成・技術移転重視の場合

自社の技能水準や企業文化を時間をかけて移転したい場合は、技能実習制度の活用が意義あります。ただし、制度改変(育成就労制度への移行予定など)や監理コストを含めた全体設計が不可欠です。

共通の実務上の注意点

いずれの制度でも、在留資格変更や特定技能への移行手続き、支援計画の作成など実務フローを事前に整理することが、採用成功の鍵となります。

特定技能のメリット・デメリット

工場内でオレンジ色の安全ベストとヘルメットを着用した作業員が、大型の金属部品を指差しながら点検・指示を行っている様子。製造業や技能実習、特定技能人材の現場を象徴するシーン

特定技能制度は、人手不足に悩む企業にとって有効な人材確保の手段です。とはいえ、メリットを活かすには制度特性を踏まえた運用設計が不可欠です。ここでは、実務で重要となるポイントを整理します。

特定技能1号・2号の区分と即戦力性(メリット)

特定技能外国人の最大のメリットは、即戦力となる人材を受け入れられるということにあります

特定技能1号試験や実務経験により一定の技能が確認された人材を想定しています。
入社後の教育負担を抑えられるため、即戦力の確保に向きます。
特定技能2号より高度な技能を有する者が対象で、在留更新が可能です。
結果として長期的な定着を期待でき、企業は中長期のキャリア設計を示すことで人材確保に有利になります。

とはいえ、特定技能2号は1号の対象全分野をカバーしているわけではありません。採用戦略を策定する際は、自社の業務内容と制度の対象分野との整合性を必ず確認する必要があります。

受け入れ人数枠と運用の柔軟性(メリット)

多くの特定分野においては、事業所ごとの明確な上限が設けられておらず、急な人手不足や事業拡大にも柔軟に対応できます

これが技能実習制度との大きな違いであり、即戦力を短期間で確保したい企業には有利でしょう。

とはいえ、分野や時期によっては見込み数や運用上の取り扱いがあるため、「制限がまったくない」と断定するのは避け、分野別の最新運用を確認することを推奨します。

デメリットと企業の対応策

  • 転職可能性
    • 最大の留意点。特定技能は同一分野内で転職できるため、待遇や支援が不十分だと人材流出が起こり得ます。とはいえ、転職には在留資格変更などの手続きが必要で、即時に流出するケースばかりではありません。
  • 対応策
    • 給与水準の見直し、明確なキャリアパス提示、定期的な面談や生活支援の充実といった投資が有効です。要は「流出を防ぐための競争力」を企業側が保持するかどうかがカギになります。
  • 初期導入コスト
    • 例えば、特定技能1号では入国後の生活支援は企業または登録支援機関による義務的支援として提供する必要があり、外部に委託する場合のコストは月額で2万〜4万円程度が相場となっています。このほか、採用手数料や在留資格申請の実務コストが発生します。

低達成率分野からの示唆

特定分野では、制度上のハードルや現場要件により受け入れ実績が伸び悩むケースがあります。例えば宿泊やビルクリーニングなどのサービス業分野では、日本語能力や労働条件の乏しさがネックとなり、当初の想定より実績が低い事例が報告されています。

こうした分野で採用を検討する際は、採用前に日本語教育や待遇改善の計画を確保することが、採用成功のカギになります

実務上のチェックリスト
採用目的を明確にする(即戦力か育成か)
対象分野の制度要件と自社業務の照合を行う
初期コスト(紹介料・申請費・支援委託費)を試算する
転職リスクに備えた待遇・キャリア設計を用意する
日本語教育や生活支援の体制を事前に整備する

以上を踏まえると、特定技能は即戦力確保に強みがある一方、採用後の定着を見据えた投資と実務フローの整備が必須といえます。企業は短期的な人手確保と中長期的な人材定着の両面から、制度活用の戦略を設計してください。

技能実習制度のメリット・デメリット

作業服姿の技能実習生が工場内で白い安全ヘルメットを手に持ち、黄色い資材ボックスが並ぶ通路に立っている様子。製造業や物流現場での安全管理と外国人労働者の活躍を象徴するイメージ。

技能実習制度は「国際貢献」を掲げた制度ですが、多くの企業にとっては重要な労働力の供給源ともなっています。

特に、技能実習から特定技能への移行を視野に入れる場合、企業にとって戦略的な価値が高まります。ここでは、実務で押さえておくべきメリットとデメリット、ならびに留意点を整理します。

技能移転と長期的な人材育成(メリット)

技能実習は技能習得を目的に入国する枠組みです。企業は計画的な指導体制を通じて、自社の技術や企業文化を段階的に移転できます。短期間で即戦力化する特定技能とは異なり、時間をかけて深いレベルでの技術移転が可能です。

また、初期採用コストが比較的抑えられるケースがある点もメリットといえます。加えて、実習生が帰国後に現地で技能を活かすことは、国際交流や国際協力に資する社会的な意義もあります。

受け入れ人数枠と監理団体の関与(デメリット)

技能実習には、常勤職員数に応じた受け入れ上限が設けられています。たとえば、常勤職員が30人以下の事業所の基本枠は3人です(※優良認定を受けると上限が拡大する場合があります)。この制約は、急速に人手を確保したい企業にとってはボトルネックになり得ます。

また受け入れには監理団体の関与が必要で、団体の種類や監理形態に応じて手続きや費用、対応負担が変わります。監理団体は実習計画の認定や実地の監理、報告事務などを担うため、事前に受入体制・コストを精査することが重要です。

技能実習2号から特定技能1号への移行(戦略的価値)

技能実習制度の大きな魅力の一つは、移行パスです。技能実習2号を良好に修了した者は、分野ごとの要件を満たすことで特定技能1号への申請において技能試験等の免除が認められる場合があります

具体的には、技能実習を計画に従って2年10か月以上良好に修了していることが試験免除適用の前提となります。企業はこの3年間(1号+2号の通算期間)を「育成期間」として活用し、本人の適性や業務習熟度を見極めることができます。

これにより、長期雇用の確保と転職リスクの低減を同時に図る戦略が可能です。

技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設

技能実習制度は長年にわたり外国人材の育成と国際協力に寄与してきましたが、2023年の有識者会議において、段階的な廃止方針が示されました。これに伴い、企業の労働力確保にも対応できる新制度「育成就労制度」の創設が予定されています。

育成就労制度は、従来の技能実習制度同様に技能習得を目的とした活動を行いつつ、即戦力としての就労も可能にすることを目指しています。企業は、実習生の技能評価や日本語能力の習熟度に応じて、長期的な雇用計画を策定できる点が特徴です。

現時点では、施行時期や移行手続きの詳細は未確定です。そのため、企業は今後の制度改正や省令改定の動向を注視するとともに、既存の技能実習生の対応方針や、特定技能への移行も含めた人材戦略の再検討が求められます。

実務上のチェックリスト
受け入れ枠の確認(常勤職員数に基づく基本枠と優良認定の効果)
監理団体の種類・費用・実務負担の確認と契約条件の精査
技能実習から特定技能へ移行させる場合の要件(2年10か月以上の良好修了、評価書類、技能検定等)を把握し、必要書類の準備計画を立てる
育成就労制度を含む法改正動向のモニタリングと、就業規則・雇用契約の整備

参考:育成就労制度・特定技能制度Q&A | 出入国在留管理庁

制度別に見る重要な比較ポイント

青空の下で肩車をした父親と、寄り添う母親、笑顔の子どもが幸せそうに過ごす家族の様子。外国人労働者の家族帯同や在留資格制度、ライフサポートを象徴するイメージ。

特定技能と技能実習を比較する際に、メリット・デメリット以外にも考慮すべき項目をまとめました。

家族帯同の可否と特定技能2号の特権

在留資格を選ぶ際、長期的な定着を想定する外国人にとって重要なのが家族帯同の有無です。

技能実習は国際協力を目的にした制度であり、原則として家族帯同は認められていません。実習生は一定期間の技能習得を前提に来日するためです。

これに対し、特定技能制度では扱いが異なります。特定技能1号では家族帯同は原則不可。ところが、特定技能2号では配偶者や未成年の子を日本に呼び寄せる「家族滞在」が認められます

したがって、家族帯同の可否は、企業が「長期雇用を前提に人材を確保したいか」を判断する際の重要な要素となります。企業側は、2号を見据えたキャリア設計を提示することで、優秀な人材の定着に有利になるでしょう。

必要な日本語能力試験の水準と免除条件

特定技能1号の要件として、分野別の技能試験と日本語試験の合格が基本です。日本語の試験にはJLPT(目安としてN4相当)や、国際交流基金のJFT-Basicが用いられます。JFT-Basicは就労向けに設計され、受験機会が多い点が実務上の利点です。

一方で、技能実習2号を良好に修了した者は、分野ごとの要件を満たす場合に技能試験や日本語試験が免除されることがあります

実務上は「技能実習を通算で2年10か月以上良好に修了している」「技能検定等の合格や評価調書で良好と確認されている」などの要件を満たす必要があるため、企業は移行時の要件と必要書類を事前に把握しておくべきです。

労働条件と処遇:日本人労働者と同等以上の報酬

特定技能制度、技能実習制度のいずれにおいても、採用する外国人に対する賃金や労働条件は日本人と同等以上であることが求められます

特に特定技能は転職が可能なため、同一労働同一賃金の原則を守ることがコンプライアンス上の必須要件です。

賃金だけでなく、福利厚生・安全衛生・労働時間の扱いも平等であることが、流出防止と職場の安定化に寄与します。

実務上のチェックポイント
家族帯同を人材確保の武器にするなら、2号への移行シナリオを明示する。
日本語要件(JLPTかJFT-Basic)と、技能実習から特定技能への移行における試験免除の仕組みを人事手続きに落とし込む。
賃金・福利厚生面で日本人と差をつけない処遇設計を行う。
法改正動向や分野追加の公表は随時確認する。

参考:試験関係 | 出入国在留管理庁

事例から学ぶ!特定技能採用の課題と対策

赤い文字で「Case Study」と書かれた本が机の上に置かれ、表紙には電球のイラストが描かれている。企業の事例紹介や成功事例、特定技能制度に関するケーススタディ記事を象徴するイメージ。

特定技能制度の導入後、5年が経過しましたが、その受け入れ状況は分野ごとに大きな差があり、企業が直面する課題も定量的なデータとして顕在化しています。

ここでは、公的機関の調査データと現場の声といった具体的な事例から見えてきた、特定技能採用の現実的な課題と成功への教訓を分析します。

統計で見るフィリピン人材の位置づけ

出入国在留管理庁の公表によれば、フィリピン国籍の在留者は341,518人で、国籍別では上位に位置します。

一方、技能実習の在留者数は456,595人に達しており、在留資格別では永住者に次ぐ規模です。

つまり、フィリピンは依然として日本の労働力を支える主要な供給源の一つであるといえます

参考:令和6年末現在における在留外国人数について | 出入国在留管理庁

達成率の低い分野が示す構造的な課題

制度目標に対する受け入れ実績をみると、分野間の差は顕著です。

たとえば宿泊分野は、2019年から2023年末までの累計で受け入れ見込み22,000人に対し実績401人(達成率1.8%)、ビルクリーニング分野でも37,000人見込みに対し約3,520人(達成率約9.5%)と低迷しています。

これらの低達成は、単に需要がないというよりも、次のような複合要因が関与していると考えられます。

  • サービス業に求められる高い日本語水準(接客での言語運用能力)
  • 労働条件・シフト・賃金など待遇面の魅力度不足
  • 現地での募集情報や実情の伝達不足、ミスマッチ発生

これらの要因を放置すると、採用した人材の定着や業務品質に直結するため、採用前に待遇改善や日本語研修計画を用意することが重要です

参考:特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について | 出入国在留管理庁

現場が直面する二重の壁:手続き遅延とコミュニケーション不足

中小企業の採用現場からは、次の二点の課題が繰り返し報告されています。

  1. 手続きの遅延
    • OEC(海外雇用許可証)やその他の送り出し手続きの遅れにより、内定者が予定通り入国できないケースが散見されます。結果として採用スケジュールが後ろ倒しになり、採用計画全体に影響を与えます。
  2. 現場でのコミュニケーションギャップ
    • N4相当の日本語能力があっても、実務で円滑に作業を回すには不足するケースが多く、教育・OJTの設計や現場管理の負担が増えています。

これらの壁を放置すると、内定辞退・離職率の上昇につながり得ます。したがって企業側は事前のスケジュール余裕、現地パートナーとの緊密な連携、そして着任後の教育体制の強化をセットで準備する必要があります

実務的な対策

企業としてはこうした課題に対処するために、以下のような対策を講じることが有効です。

対策
  • 採用スケジュールはCOE(認定証明書)の有効期間やOECの手続き期限を踏まえ、余裕を見て逆算する。
  • 信頼できる送り出し機関(DMW認定)や現地パートナーを複数比較・選定し、手続きの進捗を定期的に確認する。
  • 日本語研修(事前のオンライン研修+来日後のOJT)を採用パッケージに組み込み、現場定着を支援する。
  • 募集要件と現場業務内容を事前に細かくすり合わせ、ミスマッチを減らす(業務プロファイルの作成)。
  • 分野別の受入れ実績や達成率を踏まえたリスク評価を行い、宿泊やビルクリーニング等の分野では待遇改善プランを用意する。
採用担当者向けチェックリスト
COE/OECの想定リードタイムを採用カレンダーに反映したか?
現地送り出し機関の信頼性と費用を比較したか?
日本語教育・生活支援の体制は確保できるか?
受け入れ分野の達成率や市場特性を踏まえた期待値を経営層と共有したか?

現場の声:特定技能2号取得者が示すキャリアの魅力

特定技能2号の取得は、外国人労働者にとって日本での永続的な就労を視野に入れるための強力な動機付けとなります。

DHIZON ROJO氏の事例

岡山県の造船業で働くフィリピン人のDHIZON ROJO氏は、2024年2月に特定技能2号試験に合格しました。彼はもともとフィリピンの鉱山で辛い労働に従事していましたが、日本のモノづくりの現場で働く夢を追い、実習生として来日しました。

現在、彼はパマナ運河を航行する最大クラスの商船を造る現場に関わり、技能を磨き、日々充実した仕事に取り組んでいます。

彼は日本のモノづくりに対する強い熱意を持ち、N1級に挑戦するほど日本語も堪能です。さらに、2号取得を通過点と捉え、フィリピンの専門学校の通信課程でエンジニアの勉強を続けるなど、自己啓発に貪欲です。

会社としても、外国人材の支援に力を入れています。例えばこれまでは技能実習生や特定技能者を自社社員寮で受け入れて来ましたが、生活環境向上のために民間の住宅を会社で借り上げました。

学べる教訓
  • キャリアパスの提示
    • 企業が長期的なキャリアパス(2号への移行)を提供し、本人の意欲を支援することで、優秀な人材の定着に繋がる。
  • 企業としての支援体制
    • 外国人材が気持ちよく生活をしてもらう環境を整えることも、人材定着支援の一つ

参考:特定技能2号受け入れ事例紹介:造船業での活躍!モノづくりの本質を求めて| G.A.コンサルタンツ株式会社

フィリピン人採用特有の複雑な課題:DMWと送り出し機関の関わり

フィリピンの地図上に国旗ピンが立ち、マニラやルソン島が示されている様子。フィリピン人労働者の海外就労や特定技能・技能実習制度に関連するイメージ。

フィリピン人材を採用する際は、特定技能や技能実習という日本側の在留制度を理解するだけでは不十分です。フィリピン政府による送出規制(DMW/旧POEA)と、現地の送り出し機関の実務慣行を押さえることが不可欠です。ここでは、制度上の要点と現場での課題、ならびに企業が取るべき具体的な対策を整理します。

DMWと送り出しルールの要点

フィリピンは国民の約10%が海外で働いているという現状があり、労働者を保護するため、DMW(海外労働者省)という行政機関が海外への送出を厳格に管理・監督しています

例えば、フィリピンではエージェントを介さない企業による直接雇用は原則禁止されており、DMW認定の送り出し機関を通じた手続きが必要となります。

この規制は、送り出し機関の役割を重要なものにしますが、同時に費用の高騰や手続きの遅延といった課題を引き起こす原因ともなっています。

またDMWは不当な手数料徴収を禁じる通達を出しており、紹介料や手数料の取り扱いには法的なルールが適用されます。とはいえ、実務上は運用に差が出ており、企業側が想定外の費用負担や説明不足に直面するケースが散見されます。

企業負担の費用負担目安と注意点

採用コストは案件や契約形態で大きく変わります。以下に目安としての費用を提示します。

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費用分類項目費用目安注意点
採用に関わる費用送り出し機関への手数料100,000〜600,000円/回事業者・契約形態で変動。DMW規定に抵触する不当徴収は違法。
採用に関わる費用人材紹介手数料(仲介)100,000〜300,000円/回エージェントにより幅あり。支払い条件を明示すること。
在留資格申請在留資格申請費用(行政手続)100,000〜200,000円/回行政書士等への依頼費を含む目安。
義務的サポート義務的支援委託費(SSW)月額20,000〜40,000円登録支援機関へ委託する場合の相場目安。
その他入国時の渡航費用50,000〜100,000円/回企業負担となるケースが多い。

注:上表はあくまで目安です。実際の請求内容は送り出し機関ごとに詳細を確認し、契約書で明細・支払条件を明確化してください。

信頼できる送り出し機関の選定基準

フィリピン人採用における最大の実務リスクの一つは、送り出し機関の選択です。なぜなら、一部には不当な費用請求や書類偽造、質の低い日本語教育といった悪質な運営を行う機関が存在するからです。

そうした事案は、労働者本人に深刻な被害をもたらすだけでなく、受け入れ企業にも失踪・不法就労・労務トラブルといった重大な負担を引き起こします。

したがって、送り出し機関の選定は「人が来るかどうか」だけで判断してはいけません。倫理性・透明性・法令順守を含めた総合的な適性評価が不可欠です

信頼できる送り出し機関を見極めるチェック表

下表は、選定時に必ず確認すべき主要項目と、信頼できる機関の特徴、避けるべき兆候を簡潔にまとめたものです。面談や書面確認の際にこの表を使ってください。

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確認ポイント信頼できる機関の特徴避けるべき機関の兆候
DMW認定の有無DMWの正式認定・登録があるか認定なし、登録抹消履歴、認証を示さない
費用体系の透明性募集から渡航までの全費用を明細で提示、書面化している高額な入校料や手数料を口頭でのみ案内、内訳不明
事前教育の質と期間日本語・生活習慣・安全教育を十分な期間で実施し教材を示せる短期で形だけの日本語講座、教材や講師の情報がない
日本での支援体制入国後の連絡窓口、トラブル時の対応フローが明確送り出し後に連絡が途絶える、対応が曖昧
不正行為の有無書類の真正性を担保し、キックバック等を否定する内部規程がある申請書類の筆跡不一致、紹介料などの不正要求がある
実績と評判過去の受入先企業や労働者からの高評価・紹介があるクレームや摘発事例が多い、評判が悪い
選定時の必須実務手順
  • DMW登録の有無をオンラインで確認する。
  • 見積書・費用内訳を日英両語で交付させ、支払い条件を明記する。
  • 過去の受入企業への照会(リファレンスチェック)を行い、現地での実例を確認する。
  • 事前教育(日本語・生活習慣)のカリキュラムと講師の資格を確認する。
  • 契約書に「費用の内訳開示」「返金条件」「トラブル時の対応ルール」を盛り込む(必須条項)。

DMWは労働者に対する不当な紹介料の徴収を禁じる方針を示しています。しかし実務では運用差があり、企業が想定外の費用負担を求められる事例もあります。採用前には必ず「誰が何を負担するか」を明確にし、労働者負担が不当な形にならないかをチェックしてください。

参考:DMW

送り出しカフェの活用

送り出しカフェ公式サイトトップ画面

送り出しカフェは、フィリピン人労働者の採用を検討している日本企業を対象に、フィリピン現地の送り出し機関の紹介・仲介を行っています

フィリピン政府のライセンスを持つ正規の送り出し機関と提携しており、年間2,000人を海外に送り出す実績を有するパートナーなど、実績豊富な機関と連携しているのが大きな特徴です。

送り出しカフェ活用のメリット

送り出しカフェを利用することによって、企業は以下のようなメリットを享受できます。

送り出しカフェ活用メリット一覧
信頼性のある送り出し機関の紹介

フィリピン政府公認のライセンスを持つ送り出し機関と提携しているため、違法・不透明な業者を避けられる。

人材の母集団が大きい

提携大学・職業訓練校から約7,000人規模の候補者がいるため、必要な職種に合った人材を探しやすい。

特定技能16分野に対応

介護・外食・建設など幅広い業種の求人に対応できる。

安心の日本語対応

日本人スタッフが窓口となるため、言語や文化の違いによる誤解・トラブルを減らせる。

採用から入国後までワンストップ支援

求人票作成、面接調整、ビザ・MWO申請、入国後の定着支援までトータルサポート。

手続きの負担軽減

フィリピン側で必要な複雑な申請書類や手続きを代行・支援してくれる。

日本語教育サポート

採用前から就労後まで継続的に日本語教育を行う体制があり、現場でのミスや離職リスクを軽減できる。

費用や採用リスクの低減

信頼性の低い送り出し機関を選んで失敗するリスクを減らし、スムーズな採用につながる。

企業は送り出しカフェを活用することによって、DMWのルール確認、信頼できる送り出し機関の選定、明確な契約とスケジュール管理などを円滑に行うことができるでしょう。

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まとめ

青いヘルメットと安全ベストを着用した若い技能労働者が、建設現場で自信を持って立っている様子。特定技能や技能実習制度における外国人材の活躍を象徴するイメージ。

特定技能は即戦力として、技能実習は特定技能への移行を前提とした育成の場として、それぞれの特徴を理解し、活用することが、人手不足の課題解消に繋がる鍵となります。

しかし外国人材の受け入れのための手続きが複雑で、送り出し機関の選定・利用も必須となります。さらにフィリピン人材を受け入れる際には、MWOへの申請も行わなければなりません。そのため、専門知識を持つ機関へ相談し、プロのサポートを受けることが成功への近道と言えるでしょう。

私たち送り出しカフェは、日本企業が外国人材を単なる労働力としてではなく、共に未来を築くパートナーとして迎え入れ、その能力を最大限に引き出すための環境整備に投資することが、持続可能な事業成長に繋がると確信しています。

信頼できる送り出し機関を選び、外国人材が日本で安心して働き、成長できる環境を共に創り出すことで、貴社の事業はさらに活性化し、日本の未来を拓く力となるでしょう。

フィリピン人採用でご不安やお悩みの点があれば、まずは一度、お気軽にお問い合わせください

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この記事を書いた人

三木 雅史(Masafumi Miki) 株式会社E-MAN会長
1973年兵庫県生まれ / 慶応義塾大学法学部法学科卒
・25歳で起業 / デジタルガレージ / 電通の孫請でシステム開発
・web通販事業を手掛ける
・2006年にオンライン英会話を日本で初めて事業化
・2019年外国人の日本語教育を簡単、安価にするため
 日本語eラーニングシステムを開発、1万人超の外国人が日々学習中

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